研究課題/領域番号 |
24659146
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 勉 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 講師 (30302798)
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研究分担者 |
松浦 憲 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (10625742)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞融合 / Wnt / Bcl9-like / Gcm1 / Syncytin / 組織修復・再生 / 浸潤・転移 |
研究概要 |
1)マウス正常組織におけるGCM1、SyncytinおよびWnt活性の発現解析 Wntシグナルがドライブした組織をX-Gal染色やβ-galactosidaseに対する免疫染色で検出できるリポーターマウス(TOPGALマウス)を用いて、全身を42の組織・器官に分けてGCM1、Syncytin-A(Syna)、Syncytin-B(Synb)の発現を調べ、Wnt活性との相関を検討した。その結果、胎盤形成時の細胞融合を制御するGCM1が、胎盤以外の組織でも発現していることを見出した。特に腎臓では顕著であった。 2)組織傷害修復・再生モデルにおけるGCM1、SyncytinおよびWnt活性の発現解析 腎臓におけるGcm1の顕著な発現に着目し、Wntリポーターマウス腎臓の組織障害の系(虚血再灌流傷害モデル)で検証を開始した。修復・再生組織におけるGCM1、SyncytinおよびWnt活性の発現を解析した。その結果、qRT-PCRで傷害2-5日後にWnt標的遺伝子Axin2、BambiなどとともにGCM1、Syna、Synbの発現上昇が見られた。特にGCM1とSynbの発現量の間には高い相関が確認された。これは私たちが胎盤で確認し報告した内容(Nat Commun 2, 548, 2011)と一致している。すなわち、腎臓の虚血再灌流傷害後にWntシグルの活性化が起こりGCM1およびSyncytinの発現が誘導されることを明らかにした。 さらに、dextran sodium sulfate (DSS)投与による潰瘍性大腸炎モデルでは、Wntの供給源である幹細胞が存在するクリプトにおいて、DSS投与終了後2日目以降に孤発的にSynaの発現が上昇することを見出した。これらの結果は組織傷害後の修復・再生過程でWnt/GCM1/Syncytin系が機能して細胞融合を誘導している可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は、正常マウス組織および種々の組織傷害モデルおよび浸潤・転移モデルを用いて、Wnt活性・GCM1・Syncytinの発現プロファイルを詳細に明らかにすることを目標とした。上述のように、腎臓の虚血再灌流傷害モデルおよび潰瘍性大腸炎モデルでは、正常組織が傷害を受けた際に、Wntシグナル制御下でSyncytin依存的な細胞融合が誘導される可能性を示唆する新規性の高い知見を得ることができた。一方で、放射線による腸管傷害モデルおよび毛包・筋肉の傷害モデルや、癌の浸潤・転移モデルにおけるGCM1、SyncytinおよびWnt活性の発現解析の実施が時間的にできなかった。これは、腎臓の虚血再灌流傷害モデルおよび潰瘍性大腸炎モデルの系を再現性良く確立するのに当初の予想以上に時間を要したことによる。
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今後の研究の推進方策 |
腎臓の虚血再灌流傷害モデルおよび潰瘍性大腸炎モデルで一定の知見が得られたことから、24年度未施行の放射線による腸管傷害モデルを用いた解析を進めつつ、当初の計画通り、Syncytinの組織特異的KOマウスの作製および解析に着手する。24年度の結果で構成的あるいは傷害依存的にSyna・Synbの発現がみられた腎臓もしくは腸管クリプトに対応するCreマウスと、Syna もしくはSynb Floxed/Frtマウスを交配し、コンディショナルKOマウスを作製し、解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に配分された研究経費の多くは消耗品費(試薬・実験器具・実験動物など)に充当する。その他、共同研究および成果公表に必要な諸費用や、マウス維持に伴う謝金に充当する。
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