研究課題/領域番号 |
24659149
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金田 安史 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10177537)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 / 抗がん剤耐性 / 前立腺癌 / 多能性維持因子 |
研究概要 |
本研究においては、様々なストレスに暴露されることにより、癌細胞の一部が一過性に未分化状態になって多能性を獲得するのではないか、という仮説の実証を行い、癌における多能性獲得とその破綻機構を解明する。我々は抗癌剤のDocetaxelを前立腺癌細胞DU145に作用させ、Docetaxel抵抗性の安定形質転換株を分離した。Docetaxel感受性のDU145にDocetaxelを投与し24時間後の遺伝子発現を網羅的に解析し、安定形質転換株の細胞の発現遺伝子と比較したところ、Nanog, Sox2, Oct4といった遺伝子がDocetaxel投与により急速に増加し、その後次第に低下し、安定形質転換株の発現レベルまで減衰した。シグナル経路を調べると、抗がん剤によりERK1/2とp38が活性化していた。それぞれの阻害剤をかけたときの癌細胞のスフェア形成能を調べるとERK1/2がより強い関与を示すことが分かった。ERK1/2はc-mycをリン酸化して安定化させることが知られているので、c-mycの発現を調べると、抗がん剤処理したDU145細胞や、抗がん剤耐性癌細胞株でc-mycが安定に高発現していることが見出された。c-mycにより遺伝子発現が亢進する遺伝子としてCXCR4遺伝子の高発現が明らかになった。CXCR4のアンタゴニストであるAMD3100により抗がん剤耐性株のスフェア形成能は著しく抑制された。C-mycのsiRNAを導入した場合も同様な阻害効果が得られた。以上のことから抗がん剤耐性株では、腫瘍形成能力を表すスフェア形成能が亢進しており、それはCXCR4/ERK1/2/c-mycのシグナルループが形成されていることによると考えられる。したがって抗がん剤とともに、このループを阻害する薬剤を投与することにより、抗がん剤の有効性を飛躍的に高めることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
抗がん剤耐性株では、CXCR4/ERK1/2/c-mycのループが活性化し、相互に遺伝子発現を高めあっていることが明らかになった。これは予想しなかった新しい発見である。
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今後の研究の推進方策 |
多能性維持因子の一過性の発現の意義がまだ十分示されていない。この発現とCXCR4/ERK1/2/c-mycのループ形成にどのように影響しているのかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
Nanog遺伝子の完全欠損癌細胞株を作成する。そのために特定の遺伝子座を破壊できるZFN, TALEN, CRISPRなどを利用する。Nanog欠損株の増殖能、スフェア形成能、腫瘍形成能を評価する。
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