研究課題/領域番号 |
24659150
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小根山 千歳 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (90373208)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ラフト |
研究概要 |
今年度は、ラフトを標的としたがん形質抑制法について探索するため、がん形質に伴うラフトの量的・質的変化の詳細な解析を行った。まずモデル細胞における脂質のがんにおける役割解明に関して1)がん化モデル細胞におけるがん形質とラフト形成及び脂質の量的・質的変化及び、2)脂質の量的・質的変化を誘起した際のラフト形成とがん形質の解析を行った。その結果、1)については、Srcがん化モデル細胞において、そのがん形質とラフト構成に関わる脂質について放射性ラベルした脂質の取り込みを薄層クロマトグラフィーによって分離し詳細に調べたところ、がん形質発現時にラフト領域においてセラミド量の増加が見られることを明らかとした。さらにがん形質発現時のラフト領域におけるセラミド量の増加がなぜ起こるのかを明らかにするため、セラミド合成・代謝に関わる遺伝子群の発現を解析した。これにより、セラミドの代謝ではなく合成に関わる遺伝子群全般が発現亢進していることを明らかとした。さらに2)については、1)の結果からがん形質発現時にラフト領域における変化が明らかとなったセラミドについて、セラミド合成経路を阻害する薬剤あるいはセラミド合成酵素の発現抑制によりセラミド合成を抑制すると、がん形質が抑制されることを見出した。これらにより、がん化においてラフトを構成する脂質が量的・質的に変化すること、脂質を変化させることによるラフトの状態を人為的に干渉し、がん形質を抑制することができる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、これまでの研究で示唆されたラフトの持つ潜在的ながん抑制能を利用し、ラフトを標的としたがん形質抑制法について探索することを目標としている。そのため、期間内にがん形質に伴うラフトの量的・質的変化の詳細な解析とその制御法の開発に取り組むことを計画している。2年計画の1年目である平成24年度は、がん形質においてラフトを構成する脂質の変化と脂質の合成・代謝に関わる遺伝子の発現解析を行った。 その結果、がん形質発現において、ラフトの領域でスフィンゴ脂質のうちセラミドの量が増加することを新たに見出し、その増加にはセラミド合成に関わる遺伝子群の発現亢進が寄与していることも明らかとなった。さらに、がん形質においてセラミド量を変化させることにより、がん形質を抑制できるということを見出し、ラフトを標的とした新たながん形質抑制法を探索する意義を明らかにした。このように今年度の結果を次年度行う予定のヒトのがん細胞やvivoにおける役割解明につなげることができたことから、概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度得られた結果をもとに、3)ヒトがん細胞における脂質ラフトの役割 及び4)ラフトを標的としたがん診断及びがん形質抑制に向けた手法の探索に取り組む。具体的に3)についてはモデル細胞の解析結果においてがん形質との関係が示唆されたラフト形成に関わるセラミドのラフト領域における増加やセラミド合成に関わる遺伝子群の発現亢進について株化されたヒト各種がん細胞を用い解析する。またこれら遺伝子の発現変化に伴う脂質組成やラフトの変化とがん形質の相関を調べる。ヒトがん細胞において、脂質変化によるラフトの量的・質的変化を誘起した際のがん遺伝子及びがん抑制遺伝子の発現・変異の状況、Srcファミリーキナーゼなどラフト関連分子の発現・活性化を解析する。これらの結果に基づき、がん形質に対する脂質変化によるラフトの抑制効果が認められるヒトがん細胞の特徴を明らかにすると共に、脂質のバランスとラフト形成、及びがん形質の抑制メカニズムを明らかにしたい。4)については、3)で得られた結果を元に、セラミド合成に関わる遺伝子群について、臨床検体を用いてがん形質との関わりを詳細に解析する。脂質の検出には、脂質結合プローブを用いた分子イメージングだけでなく、マススペクトルを用いた脂質イメージングにも挑戦する。また脂質関連遺伝子については、リアルタイムPCRや組織染色により実際のヒトがんにおける重要性を検証する。一方で、脂質マシナリーの制御によるラフトを標的としたがん形質抑制に向けての手法を探索する。ヌードマウスに脂質添加餌を摂食させたあるいは脂質合成や吸収などの阻害剤あるいは脂質関連遺伝子のsiRNAなどを投与した状態で、ヒトがん細胞を移植した場合の腫瘍形成や、静脈にがん細胞を注射した場合の肺や肝臓への転移を非侵襲的イメージングによって観察していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
恒常的経費として、細胞培養、遺伝子工学、生化学実験用の試薬や器具類及び実験動物などの消耗品や各種受託解析の費用として支出する。次年度では多種類のヒト培養細胞を用いた解析を行うため、細胞培養試薬(特に牛胎児血清)及び造腫瘍能の解析のためのマウスなど実験動物に経費を用いる。また脂質解析のための放射性ラベルされた脂質に経費を用いる。さらに、DNA マイクロアレイや脂質同定や2次元電気泳動で変化の見られた蛋白質同定を目的としたマススペクトル受託解析のため経費として使用する。
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