研究課題/領域番号 |
24659156
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
涌井 敬子 信州大学, 医学部, 助教 (50324249)
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研究分担者 |
田辺 秀之 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (50261178)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 核内配置 / 三次元距離 / 3D-FISH / 遺伝子発現 / 片親性発現 / RNA-FISH / SNRPN / 15q1 |
研究概要 |
「遺伝性疾患において疾患関連遺伝子領域の三次元核内配置の変化が遺伝子発現に何らかの影響を及ぼす場合がある」という仮説の検証を目的として,ヒトにおいて片親性発現を示す遺伝子のクラスターを形成している領域のひとつの15番染色体q11.2-q12領域に座位する発現パターンの異なる3遺伝子:SNRPN(父性発現), UBE3A(組織特異的母性発現), GABRB3(両親性発現)を対象とした3色3D-FISH法による遺伝子空間配置の解析を行った. 正常同一個人由来の3細胞種[末梢血単核球細胞,Bリンパ芽球様細胞株(LCLs),皮膚線維芽細胞株]等を材料として,いずれの細胞種においても3遺伝子領域が非直線上に規則性のある核内配置をとり,父性発現のSNRPN領域の三次元距離は相同染色体間および領域間で同様の異なる傾向があることを確認した. SNRPN/UBE3A両遺伝子の遺伝子発現パターンを細胞ごとに確認できる2色RNA-FISH法を確立し,正常,母性片親性ダイソミーのPrader-Willi症候群患者(PWS-UPD),父性片親性ダイソミーのAngelman症候群患者(AS-UPD)の各LCLsを用いて解析した.正常細胞は,UBE3Aは殆どの細胞で2シグナルの両親性発現パターン,SNRPNは想定された父性発現パターンを示すと考えられる1シグナルのパターンが50%以上を占めていたが他パターンも観察された.PWS-UPD細胞は,想定したSNRPN:UBE3A=0:2のシグナルパターンが90%以上に観察されたが,AS-UPD細胞では,想定したSNRPN,UBE3A共に2シグナルのパターンが優位だったが他パターンも観察された. 引き続き,RNA-FISH法による発現パターンを確認した細胞ごとに3遺伝子間の三次元距離を連続して解析する3D RNA-DNA連続FISH法を確立し,上記仮説の検証をめざす.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同一個人由来の3細胞種と別個人のLCLsを材料として,いずれも対象の3遺伝子領域が非直線上に規則性のある核内配置をとり,父性発現のSNRPN領域の三次元距離が相同染色体間および領域間で同様の異なる傾向があることを確認し、論文発表した. 父性発現のSNRPNと両親性発現のUBE3Aをプローブとして,正常LCLsに2色RNA-FISH法の予備実験を行い,想定したSNRPN:UBE3A=1:2のシグナルパターンの細胞が多いことを確認し,2色RNA-FISH法を確立した. さらに、正常LCLsに加え,母性片親性ダイソミーのPrader-Willi症候群患者(PWS-UPD),父性片親性ダイソミーのAngelman症候群患者(AS-UPD)の各LCLsを得て,解析数を増やした詳細な検討を行い,両親性発現のUBE3Aはほぼ想定した結果を確認したが,SNRPNは正常LCLsで父性発現パターンを示すと考えられる1シグナルのパターンが50%程度と想定より低い割合であった. 単独の3D-FISH法およびRNA-FISH法を確立し,複数の細胞種、複数の個人由来の細胞を用いた結果も得られ、おおむね順調に進展している。 しかし,本研究で目的としている,SNRPN遺伝子の三次元核内配置の変化が遺伝子発現に何らかの影響を及ぼしているかについて直接検証をするためには,3D RNA-DNA連続FISH法の確立が必要で,その確立に到ることはできなかった。その理由は、本研究の解析法が、手技が非常に複雑で技術習得に熟練を要し、1回の解析が準備から結果を得るまでに数週間と時間がかかること、さらに想定外の結果となったSNRPNの発現パターンに関する検証にも関連して、細胞周期の影響をうけている可能性を考慮した追加解析が必要となったことが、目標としていた3D RNA-DNA連続FISH法を確立させることができなかった理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である「遺伝性疾患において疾患関連遺伝子領域の三次元核内配置の変化が遺伝子発現に何らかの影響を及ぼす場合がある」という仮説の直接の検証のため,まずはSNRPN領域について,RNA-FISH法による発現パターンを確認した後,連続して3D-FISH法による遺伝子間距離を計測する,3D RNA-DNA連続FISH法確立をめざし,様々な検討を行う.方法を確立し,正常,PWS-UPD,AS-UPDの各LCLsを用いた解析を行い,結果について検証する. また,15番染色体上の異なる領域,あるいは他染色体領域にSNRPN~UBE3A遺伝子領域間と同じ約500kb離れている両親性発現が証明されている場所についても三次元距離を計測し,SNRPN領域の解析結果と比較することを検討する。15番染色体テリトリーと遺伝子の三次元配置の関連についての解析も検討する. 初年度解析対象とした片親性ダイソミーでない,ゲノム欠失や塩基置換が原因であるPrader-Willi症候群やAngelman症候群患者についても対象領域の核内配置について解析し,ゲノム変異と核内配置の関係についても検討する. 初年度の研究で想定外の結果が得られたSNRPNの遺伝子発現パターンに関して,LCLsを用いた解析による再現性の確認,細胞周期の影響をうけている可能性を考慮し細胞周期の影響を受けない正常末梢血を用いた追加検討なども平行して進める.他研究者による最新の研究を論文や学会等で情報収集する.SNRPNの遺伝子発現パターンが初年度得た結果と再現性があることが確認された場合には,そのメカニズムなどについての検討も考慮する. さらに余裕があれば,やはり片親性発現と疾患との関連が知られている他の疾患の関連染色体領域(11p15領域に責任遺伝子が座位しているBeckwith-Widemann 症候群など)の解析も検討したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度、計画時に見込んだ額よりも安価に研究が完了したため、次年度使用額が生じたが,本研究に必要な標本作成のための細胞培養,3D-FISH解析,RNA-FISH解析のための試薬・器具類などの消耗品費に加えて用いる. 解析に用いる共焦点レーザー顕微鏡と三次元画像解析ソフトは,所属機関のヒト環境科学研究支援センター機器分析部門に設置されているZeiss LSM5 EXCITERと解析ソフトIMARISを利用するため,その機器使用料の経費も計画した. 3D-FISH解析は,非常に手技が煩雑で工程も長く,標本作成にもFISH解析にもデータ解析にも時間がかかるため実験補助員が必要で,しかしながら,本研究予算では3D-FISH解析に熟練した希望の候補者をフルタイムで雇用できないため,適任者がいれば予算の範囲内で実験補助員のアルバイト雇用を考える. さらに,三次元核内配置研究に関する最新の研究動向等についての情報収集や,研究成果等を発表するための国内外の学会等参加のための旅費等に加え,論文投稿できるデータが揃った際に必要となる英文校正や投稿費用などの経費も計画した.
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