研究実績の概要 |
In vitroで膵臓がん細胞に活性化型変異GNASを導入し、GPCR経路を強制的に活性化するとcyclic AMPの上昇に伴って大規模な遺伝子発現の変化が誘導され、MAPK, PI3K経路との干渉作用が起こり、がん細胞が細胞増殖速度の鈍化を示してindolentな性質に変化することが観察された。さらに、変異GNASのin vivoにおける膵腫瘍発生進展に果たす役割を明らかにするため、CAG-Lox-STOP-Lox-GNAS (CAG-LSL-GNAS)を生殖細胞系列DNAに導入し、Ptf1a-creマウスと交配することにより、野生型あるいは変異型GNASをPtf1aプロモーター調節下にコンディショナルに発現する遺伝子改変マウスモデルTg(CAG-LSL-GNAS);Ptf1a-cre を作成した。GNASR201H発現マウス膵は非改変マウス膵に比較して膵組織内cyclic AMPの上昇を認め、膵管の小規模な拡張と小葉の萎縮、周囲実質の軽度線維化を認めたものの肉眼的腫瘍発生は認めなかった。次いで、GPCR活性化とRAS-MAPK活性化とのin vivoでの相互作用を明らかにするため、Tg(CAG-LSL-GNAS);Ptf1a- cre を活性化型変異Krasを持つLSL-KrasG12D と交配し、Tg(CAG-LSL-GNAS);LSL-KrasG12D; Ptf1a-creを作成した。GNASR201H+KrasG12Dマウスは生後5週までに拡張した膵管内に乳頭状に増生する粘液性の異型上皮より構成される、ヒト膵管内乳頭粘液性腫瘍と極めて類似した腫瘍を発生した。よって、膵におけるGPCR経路の活性化はRAS-MAPK活性化と相乗作用を来して膵管内乳頭粘液性腫瘍発生の直接的な原因となることが示された。以上より、GPCR経路活性化はRAS-MAPK活性化が主体となるアグレッシブな通常型の膵管がんをよりindolentな性質に変化させうることがin vitro, in vivoで示され、GNASは膵臓がんにおいてその性質を変化させうる重要な分子であることが明らかとなった。
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