研究課題
本研究は、これまで全く未知であったmRNAのスプライシングに基づく発癌メカニズムを明らかにし、その治療薬を探索するシステムを構築することを目的とする。具体的には、多くのヒト癌の悪性化に関与することが判明しているシグナル伝達アダプター分子CRKに焦点をあて、転移能の高いCRK-IIへの転換機構を、スプライシング制御分子ESRP-1との関連に着目して明らかにする。CRKのスプライシングモニタリングシステムを構築し、CRKのスプライシングを制御する機構を分子レベル、microRNAをスクリーニンし、これまでに全く未知のメカニズムを明らかにする。また、CRKのスプライシングを抑制する薬剤をスクリーニングシステムを独自に開発し、シーズ分子の同定に挑戦する。遺伝子発現は従来転写因子を中心とするエピジェネティックな解析が主流であり、近年はmRNAを制御するmicroRNAが注目されているが、もう1つの重要なメカニズム1つであるスプライシング機構は解明が進んでおらず、疾患との関連、癌との関連では全く深い検討はなされていないのが現状である。今回我々はシグナル伝達アダプター分子CRKがスプライシングバリアントにより機能が異なる点に着目して、新規のスプライシングモニタリングシステムを構築するものであり、スプライシングの結果を視覚化しかつデジタル化するものである。生細胞での蛍光観察が可能であり、これまでにない、時間空間的なスプライシング情報を得ることができ、正常細胞と癌細胞のスプライシングの差を明確にする画期的なシステムとなることが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、シグナル伝達アダプター分子CRKは1つの遺伝子からオルタナティブ・スプライシングによりCRK-IとCRK-IIという2つの異なる分子が発現することが知られているため、スプライシング機構を可視化するモデルを構築し、スプライシングと癌細胞の腫瘍化との関係を明らかにし、治療薬開発の基盤技術を確立することを目指すものである。平成24年度の研究計画に従い、まず様々な癌細胞においてCRK-IとCRK-IIが発現することを確認した後、肺腺癌細胞A549においては、CRK-IIを過剰発現させることによって上皮間葉移行EMT (epithelial mesenchymal transition)が誘導されることを見いだした。CRK-IIの過剰発現によりsnail、slug、N-cadherin、smooth muscle actinの発現が増加し、E-cadherinが低下する。またin vivoにおてはmiceの尾静脈からA549を注入することで肺転移を形成させるモデルにおいてはCRK-II発現細胞が肺における腫瘤形成能が増加することが明らかとなった。現在、CRKゲノムを用いてスプライシングが生じた際にのみ完全長のGFP蛋白が産生されるpCRK-GFP-genomeベクターを構築中であり、今後はモニタリングシステムを完成させスプライシング阻害薬のスクリーニングを行いたい。
平成24年度の研究においてCRK分子がスプライシングによって制御されEMTを介してヒト癌の転移能に関係することが示された。今後は現在構築中のベクターを完成させ、将来治療薬となる阻害薬を同定したい。本研究は当初2年間の予定であったが、本研究が当該年度の補助金によって推進された結果、その重要性、新規性が広く認められ、今後薬剤スクリーニング法の知財、特許を目指した研究と発展するため、研究費の1課題1補助の考え方を遵守する目的で今回発展的に終了する。
平成24年3月に納品した英文校正が翌月4月の支払になるため、未使用金額28,000円が発生した。そのため、25年度の使用予定はない。
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