研究課題
癌細胞の浸潤・遊走能を規定する要素の1つに、走化性因子の濃度勾配依存性に偽足突起を伸長する能力がある。この能力はin vitroの培養系で再現できる。穴あき透過膜上で癌細胞を培養すると、膜の下に走化性因子が存在すれば、高浸潤能の癌細胞は透過膜のポア内へ偽足を伸長する。この偽足突起に局在するタンパク質を特定するために、偽足突起を選択的かつ効率的に単離する方法の確立を目指した。そのためにエキシマレーザーを用いた。このレーザーを用いることにより癌細胞の細胞本体は除去され、一方、透過膜内に偽足突起を残存させることに成功した。この方法で得られた偽足突起に由来するタンパク質を細胞本体に局在するタンパク質と比較するためにプロテオミクス解析を行った。その結果、偽足突起内で有意に発現上昇がみられたタンパク質の中から、alpha-Parvinについて詳細な検討を行った。アクチン結合タンパク質であるalpha-Parvinは免疫染色において乳癌細胞の偽足突起部分に多数局在していることが明らかとなり、その発現を抑制すると偽足突起は短くなり、強制発現させると偽足突起は長くなった。また、乳癌細胞の遊走能に関しても発現を抑制すると低くなり、強制発現を行うと高くなった。これらのことからalpha-Parvinは偽足突起に局在し、伸長することによって細胞の遊走に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。更に、ヒト乳癌組織においてalpha-Parvinに対する免疫染色を行ったところ、invasive lobular carcinoma(ILC)において陽性像が多数確認された。ILCにおいて陽性像を示したものはそのほとんどがリンパ管への浸潤によるリンパ節への転移が確認され、alpha-Parvinの陽性とリンパ節への転移には相関関係があった。この結果は、alpha-ParvinがILCのバイオマーカーとなりうる可能性が示唆された。
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