研究概要 |
本研究計画においては、酵母を用いたcDNAライブラリの作製が予想以上に困難であったために、当初の目的を達成するため、対象生物であるベネズエラ糞線虫Strongyloides venezuelensisのゲノム情報の整備に重点を置き、バイオインフォマティクスの手法により長寿に関係する寄生動物に特徴的な遺伝子を同定する方法をとった。ゲノム情報の生データとしてHiSEQ2000によるペアエンドとメイトペアのリードが既に得られていたので、完成度の高いドラフトゲノムを構築するため、東京工業大学生命情報で新規に開発されたヘテロ接合性を考慮したゲノムアセンブラを適用し、英国サンガー研究所との共同研究によりオプティカルマッピングのデータを取り入れた。また、分裂細胞を染色して共焦点顕微鏡で観察することにより、ベネズエラ糞線虫の染色体数を決定した。 その結果、ベネズエラ糞線虫の染色体数は4本(2n=4)でゲノムサイズは52.2Mbと、C. elegansの半分ほどであることが分かった。現時点でのアセンブル結果は、総スキャッフォルド数が642本、N50が2,127kb、N50スキャッフォルド数が5本、N90スキャッフォルド数82本で、最長スキャッフォルドは15,118kbまで到達した。これは、これまでに発表された線虫ゲノムの中では最も完成度の高いドラフトゲノムのひとつである。遺伝子の解析では、総遺伝子数が18,263個でC. elegansよりも10%程度少なくなっている。ゲノムサイズの割に遺伝子数は多いが、これはイントロンの割合が小さくなり、ゲノムに占めるエクソンの割合が、C. elegansの10%からベネズエラ糞線虫では40%に増加していることが原因であった。自由生活線虫と比較するとメタロプロテアーゼ遺伝子ファミリーが大幅に拡大していた。一方化学受容体ファミリーは明らかな現象を示し、寄生虫においては外界シグナルの受容が単純化していることが推測された。現在インスリンシグナル系の遺伝子構造を確認中である。
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