研究課題
トキソプラズマは宿主細胞に侵入した後、宿主細胞機能を様々に修飾することが知られている。中でも特に形態学的に顕著な変化として、宿主のミトコンドリアやERを原虫が増殖している寄生胞近辺に引き寄せる(リクルートする)という現象が昔からよく知られている。この現象を引き起こす因子として、原虫が宿主細胞に侵入する際に、原虫の侵入とは独立して宿主細胞に注入される一群のタンパク質、ロプトリータンパク質群の関与が強く疑われている。本研究において、まず本年度はこのロプトリータンパク質の注入機構について解析した。まず、コレステロールが原虫のPV及びevacuole(eV)形成に及ぼす影響を調べた。eVは、原虫が宿主細胞に付着後、侵入する前に、宿主細胞内へロプトリータンパク質を注入する際に形成される小胞である。細胞膜からコレステロールを引き抜く作用があるMetyl-beta-cyclodextrin(MβCD)で宿主細胞を処理し、細胞のコレステロール含量を減少させたところ、原虫の侵入効率、すなわちPV形成能力は変化しなかったが、原虫によるeV形成は明らかに減少した。次に、GPIがeV形成に及ぼす影響について調べた。GPIアンカー型GFP発現細胞を用いeVへのGPIの取込みを観察したところ、GPIは、PV同様eVへも取り込まれていた。次にGPI欠損変異細胞を用い、PV及びeV形成へのGPIの影響を観察したところ、PV形成は変化しなかったが、eVが過剰形成された。このGPI欠損によるeVの過剰形成はMβCDにより相補できなかった。これらのことから、宿主の脂質マイクロドメインに存在するコレステロールとGPIは、原虫によるeVの形成に対してそれぞれ独立的に作用し、正常なeV形成にはこの2種類の脂質のバランスが重要であるが、PV形成には両者は関与していない可能性が示唆された。
3: やや遅れている
本研究はミトコンドリアをリクルートしているロプトリータンパクを同定することにある。しかしながら現在、そのロプトリータンパクの注入機序の解析に留まっている。この情報は本来の目的達成にも必要な情報ではあるが、来年度はリクルートメントファクターの同定に集中していきたい。
トキソプラズマ・ゲノムデータベースを検索することにより現在ゲノム中に55個のロプトリー遺伝子が存在することが予想される(http://toxodb.org)。これらの遺伝子の全てにFLAG-HATタグ、あるいはGST-HAタグを付加したコンストラクトを構築する。次にこのようにして作製したコンストラクトを大腸菌において発現させ、付けたタグを用いて精製し、精製ロプトリータンパク質標品を得る。得られたロプトリータンパク質を、ミトコンドリアあるいはERと混合、インキュベートして宿主オルガネラに結合させ、遠心沈殿による洗浄後に可溶化処理を行い、ダブルタグを用いた二重の免疫沈降により精製する。ミトコンドリアやERの分離は市販のキット(Mitochondria Isolation Kit for Tissue (Thermo Fisher Scientific)、Endoplastic Reticulum Enrichment Kit (IMGENEX)など)を用いる。各オルガネラの含有量が高く高純度での分離が期待できるよう、ミトコンドリアはウシの心臓、ERはマウスの肝臓をそれぞれ出発材料に用いる。
上記の目的を達成するために、引き続き適切に予算を執行していく。
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