熱帯熱マラリアの治療法は抗マラリア薬の投与が中心であるが、重度の貧血や腎不全、脳マラリアなどの合併症を伴う重症マラリア患者には、輸血や透析などの補助療法が必要になる。しかしながら医療環境が不十分なマラリア流行地域において、安全かつ効果的な輸血治療を行うことは困難である。人工酸素運搬体であるヘモグロビン小胞体(HbV)は、高純度・高濃度ヒトヘモグロビンを含有するリポソームで、赤血球と同等の酸素運搬機能を持ち、常温で2年以上保存可能である。ヘモグロビン精製工程で加熱処理とウイルス除去膜処理の組合せで、感染に対する安全性を確保し、また血液型を問わないという特徴がある。そこで本研究は、HbVの応用による重症マラリア合併症の補助療法の開発を目標とし、ローデントマラリア原虫とマウスの感染実験系を用いて、HbVの適用可能性を評価することを目的とした。 Plasmodium berghei感染後6日目よりHbV 100 ulを尾静脈より24時間毎に9日間投与し、同量の生食投与区やHbV未投与区と日々比較したが、本HbV投与群では原虫寄生率、体重変化、生存率などの指標による病態改善は観察されなかった。しかしながらHbV投与直後のマウスは、未処理区や生食投与のマウスと比較して著しく行動が活発になることが観察された。 そこで25年度は、ロータロッド試験を導入し、HbV投与前後のマウスの行動変化の定量化を試みた。原虫感染後、毎日ロータロッド試験を行い、マラリア重症化に伴いロータ滞在時間が低下したマウスに対して、HbVを投与した3分後に再度試験を行ったところ、投与前と比較して有意なロータ上滞在時間の延長が観察された。 これらの結果から、重症マラリア合併症の補助療法としてのHbV輸血の有用性が示唆された。
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