研究課題/領域番号 |
24659199
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
平山 壽哉 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (50050696)
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研究分担者 |
中野 政之 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (60398005)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ヘリコバクター・ピロリ / VacA / 細菌毒素 / 毒素産生 / 産生制御 |
研究概要 |
Helicobacter pylori(ピロリ菌)が産生するvacuolation cytotoxin (VacA)はピロリ菌の病原因子として最も重要な因子の1つとして認識されているが、しかしながらVacAタンパク質の産生を制御する因子やそのメカニズムについては検討が行われていない。そこで本研究では、様々な解析を行うにあたり、以後の解析にて使用することが予想されるvacA遺伝子を相同組換え法により破壊した変異株の作製することから開始し、本変異株の作製に成功した。次に、VacAタンパク質の産生条件について、これまでの論文等で報告されている液体培地を用いた培養条件での比較を抗VacA抗体を用いたWestern blottingによる解析にて検証を行った。その結果、報告されているいずれの液体培地にてピロリ菌の培養を行ってもVacAの産生量に大きな差を認めることができなかった。現在は、0.2% β-cyclodextrinと10%牛血清含有のBrucella brothを使用した培地を使用して解析を行っている。またVacAタンパク質に結合する(もしくは相互作用する)菌体内因子について検討するために、抗VacA抗体を用いたaffinity columnを作製した。この作製したaffinity columnを用いて得られた溶出画分をSDS-PAGEにて展開し、認められるタンパク質のバンドを確認した。しかしながら、非特異的に結合していると思われる複数のタンパク質が認められており、更なる条件検討が必要と思われる。そこで、現在はこれらのタンパク質の除去と特異的にVacAと相互作用するタンパク質を検出する条件の検討を行い、鋭意進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ピロリ菌が産生するVacAの産生について、はじめにVacAタンパク質の産生量での検証を行うために培養条件の検討を試みたが、ピロリ菌の増殖が非常に遅いこともあり、残念ながら計画段階で予想した期間よりも多くの時間を費やすことになってしまった。そのため、解析を予定していた様々な培養条件での検討を十分に行うことができなかったこともあり、想定していた本研究の進捗状況に遅れが生じていることを認めざる終えない状況である。しかしながら、この液体培地を用いたVacAの産生に対する検証を行うことは本研究の研究課題を遂行するために最も重要であると考えているので、多くの時間を費やすことは致し方ないものであり、今後に得られる成果次第では十分に進捗状況を挽回することが可能であると考えている。また、本研究を遂行するにあたりVacAタンパク質の産生条件について、十分な検証や基盤となるデータをより多く蓄積することは今後の研究の進展に大いに役立つものと認識している。さらに、VacAと相互作用するピロリ菌の菌体内因子の検索については、VacAタンパク質が保持する性質のためなのか、非特異的に結合していると思われる複数のタンパク質が存在しているが、これらの多くがピロリ菌を培養する際に使用した牛血清由来のタンパク質であることが示唆されている。したがって、これらのタンパク質を除去することに主眼をおき、問題をできる限り早い段階で解決するために様々な条件の検討を行うことにより、VacAと特異的に相互作用するタンパク質を同定することができるもの期待している。特に、この解析では非特異的に結合するタンパク質を可能な限り除くことが重要であり、以後の研究の進捗状況に大きな影響をもたらすことが十分に想定されるので、本解析の条件検討に時間を費やすことは必須なことであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度では、まず現在継続して行っているVacAの産生を制御する培養条件の検討を行い、可能な限り早期に候補となる条件について明らかとする。先ほども示したように、ピロリ菌は増殖速度が遅いこともあり多くの項目について検討することは難しいので、本年度では特に各種栄養素と金属イオン等について焦点を絞り、現在使用している液体培地に各成分を添加することで非添加時とのVacAタンパク質の産生量に対する影響について解析を進めることを予定している。また、VacAと特異的に相互作用するピロリ菌内に存在する因子についての検討を行うが、この解析で使用する抗VacA抗体を用いて作製したaffinity columnについてはすでに作製済みであるので、これを有効活用する。このカラムに加えて、本年度ではすでに作製済みであるvacA遺伝子欠損株由来の菌体破砕液を用いることに変更し、さらには液体培地に含まれる牛血清成分を出来る限り除く工夫を加えることにより、VacAに結合する因子の存在を明らかにすることが出来るものと予想している。この相互作用する因子の同定をすることより、VacAタンパク質がもたらす各種機能に対する影響やその作用メカニズムなどを解き開かすことが出来るものと考えている。これまではタンパク質での解析を中心に行って来たが、本年度では遺伝子レベルでの解析も進めることを予定しており、これも同時並行して推進する。 これらの解析を行うことで、VacAタンパク質の産生を制御する因子や培養条件を明らかにすることができ、得られた新たな多くのデータはピロリ菌の最も主要な病原因子であるVacAに対する知識を深める上では大切な事柄であると考えているので、精力的に研究活動を推進していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
様々な消耗品(プラスチック製品、試薬類、ガラス器具など)は研究を推進するためには必須であるので、これらは必要に応じて購入する。また設備備品の購入については、本研究の申請書にて申請済みの機器である「上皮細胞抵抗測定装置」はサルモネラの病原性を解析するための機器としては非常に有用であるので、購入することを予定している。 さらに、研究成果の発表や他の研究者との意見交換を行うために関連学会に参加することは今後の研究の方向性を見極めるために大切なことであると考えているので、そのために必要な旅費として使用する。加えて、研究活動に必要な機器などの使用料として予算を適切に執行する。
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