研究課題/領域番号 |
24659216
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松島 綱治 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50222427)
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研究分担者 |
上羽 悟史 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00447385)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 移植・再生医療 / 免疫学 / 細胞・組織 / 病理学 / 癌 |
研究概要 |
本研究では骨髄GVHDの細胞・分子機序の解明と治療法確立の基礎を築くことを目的としている。骨髄において造血ニッチとして働く骨髄間葉系細胞(線維芽細胞、骨芽細胞)のallo-HSCT後の動態を明らかにすべく、本年度は下記の実験を行った。 [C3H.SW→C57BL/6] minor mismatch allo-HSCTモデルの確立:蛍光レポーターTgの背景であるC57BL/6 (B6, H-2b)マウスをレシピエントとして使用可能なallo-HSCTモデルを作成するため、致死量のX線照射を施したB6マウスにC3H.SW(C3, H-2b)のT細胞除去骨髄(TCD BM)のみ、またはTCD BM+T細胞を移植し、GVHD(-)群またはGVHD(+)群を作成した。移植後経時的に大腿骨におけるALP+骨芽細胞の組織学的分布解析ならびに下腿骨における線維芽細胞および骨芽細胞関連遺伝子の発現解析を行い、移植後早期から線維芽細胞および骨芽細胞が障害されていることを確認した。 Col1a2-GFPレポーターマウスを用いた骨髄線維芽細胞の動態解析:上記の[C3H→B6] allo-HSCTモデルにおいて、線維芽細胞特異的にGFPを発現するCol1a2-GFPマウスをレシピエントとしたallo-HSCTを行った。移植後14日目の大腿骨から酵素消化により調整した細胞をフローサイトメトリーにより解析したところ、GVHD(+)群ではGVHD(-)群に比較し、Col1a2-GFP+線維芽細胞が著減していた。また、42日目の骨髄では、海綿骨領域における骨過形成と、皮質骨領域の線維化を認めた。これらの結果は、急性期において骨芽細胞のみならず線維芽細胞も障害をうけること、また慢性期における回復過程の異常により、造血を支持する骨髄微小環境が失われることで、造血障害に陥ることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各種蛍光レポーターマウスを利用可能かつ骨髄障害を発症するallo-HSCTモデルとして、当初[bm12→B6]もしくは[B6→BDF1] MHC mismatchモデルを想定していたが、今回よりヒトで主に行われるallo-HSCTに近い、 [C3H→B6] minor mismatchモデルにおいても、骨髄障害が発症することが確認できた。同モデルにおけるCol1a2-GFPレポーターマウスを用いた線維芽細胞障害の解析から、急性期の数的減少と慢性期の過形成という、当初想定していなかった間葉系細胞の異常が明らかになったことは、今後ヒトallo-HSCT患者で特に問題になる慢性GVHDに伴う造血障害の機序を解明する端緒をつかんだといえる。Osterix_SCAT3.1をレシピエントとした移植についても検体数を順調に積み重ねており、総じて順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
骨髄間葉系細胞の動態可視化と、分化・増殖異常の分子機序:昨年度に引き続き、 [C3H→B6] minor mismatchモデルを用いて、骨髄間葉系細胞の障害と回復過程を詳細に解析する。 CD4 T細胞由来骨芽細胞傷害/抑制因子の解析:レシピエントにOx-SCAT3.1およびOx-Fucci、ドナーに遺伝子欠損マウスを用いるため、(B6×DBA2)F1マウス(H-2b×d)をレシピエント、B6マウスをドナーとしてGVHDモデルを作製する。これまでの予備的検討により、骨髄浸潤ドナーCD4 T細胞は細胞傷害性分子および骨芽細胞抑制因子を発現していることを見出している。これらの分子が骨芽細胞の動態に及ぼす影響を解析するため、レシピエントにOx-SCAT3.1, Ox-Fucci,ドナーに細胞傷害性分子および骨芽細胞抑制因子の遺伝子欠損マウスを用いてB6→BDF1急性GVHDモデルを作製し、2. と同様の解析を行う。 慢性GVHDモデルにおける骨芽細胞障害の評価:実験的GVHDは、移入した成熟ドナーT細胞が直接宿主組織を障害する急性GVHDと、ドナー造血幹細胞から胸腺分化を経てT細胞が再構築される際に生じる自己反応性T細胞が、自己免疫様の症状を引き起こす慢性GVHDに分類される。申請者はこれまでにC3H.SW-H2b (H-2b) をドナー、B6をレシピエントとして、TCD BMと共にCD8 T細胞を移植する慢性GVHDにおいて、GVHD発症時にエフェクターCD4 T細胞の増加とともに、骨髄B細胞が著減することを見出している。慢性GVHDにおける骨芽細胞障害が認められた場合、2、4. と同様の解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では遺伝子組み換えマウス、中和抗体、アンタゴニストを駆使してGVHDモデルマウス生体内における血球細胞の動態制御と骨髄間質系細胞障害を解析する。 多数の野生型および遺伝子組み換えマウスを数ヶ月に渡って維持するためには、常時SPF下でアイソラック数台単位のマウス飼育を行う必要があり、一定額のマウス購入費・飼育費(120匹×1500円=18万円、ディスポケージ・餌・床敷きなど20万円)が必要になる。慢性GVHDモデルを作成するための移植細胞の調整や、免疫応答をフローサイトメトリーや蛍光顕微鏡で検出、分離するために各種モノクローナル抗体・FACS用試薬(5万円×12本=60万円)が必要である。 分取した免疫担当細胞または組織細胞から核酸を抽出しライブラリーを作成し、次世代DNAシークエンサーで配列を読み取るには、多数の分子生物学およびシークエンス関連試薬や消耗品を必要とする。得られた核酸情報を基に、候補遺伝子の機能解析を行うステップでも、各種の分子生物学的試薬が必要となる(約30万)。これら一連の実験には、一般実験室で使用するプラスチック製品(ピペット、プレートなどの消耗品、約22万)も必要である。H25年度は合計金額150万円の物品費を予定している。
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