研究課題
血球貪食現象は、しばしば激しい炎症の指標として位置づけられてきた。申請者は、重篤なウィルス感染系を用いてマウス血球貪食モデルを構築し、同モデルを駆使して、血球貪食誘導機序の詳細ならびにその免疫学的意義を解析した。その結果、主たる被貪食細胞は赤芽球であり少数の顆粒球もふくまれること、一方、貪食細胞は単球由来の樹状細胞であることが判明した。また、貪食のメカニズムとして、被貪食細胞のアポトーシスによるフォスファティジルセリン(PS)の露出、貪食細胞上へのPS受容体の誘導が起こり、血球貪食に至ことが明らかになった。この際、血球貪食依存性に単球由来の樹状細胞からIL-10が産生された。興味深いことに、貪食細胞上のPS受容体に対するブロッキング抗体を投与して血球貪食を抑制すると、IL-10の産生は起こらず、ウィルス特異的CTL活性および同CTLによる肝傷害が著しく亢進して、半数以上の個体が死亡した。さらに、樹状細胞特異的にIL-10を産生できないCD11c-Cre/IL10-floxマウスを作製して、同マウスに重篤なウィルス感染を誘導すると、血球貪食は惹起されるものの、貪食樹状細胞からIL-10が産生されず、その結果、前述のマウスと同じ原因で死亡した。これらの結果は、従来激しい炎症の指標と位置づけられていた血球貪食現象が、実は激しい炎症・免疫応答を抑制するための免疫寛容機構の1つであり、それによって組織傷害を軽減し個体の生存を保証していることを示唆していた。また、個体の生存を保証する代償として、ウィルス感染が慢性化する可能性も示された。今後、この血球貪食を積極的に誘導する技術を開発することによって、重篤な炎症疾患の治療戦略に繋がる可能性が期待される。
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医薬ジャーナル
巻: 2月号(Vol49, No.2) ページ: 95-100
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