研究概要 |
本研究の目的は、医療経済評価における1QALY(Quality-adjusted Life Year, 質調整生存年)あたりのWTP(Willingness-to-pay, 支払意思額)の閾値をアジア3か国共通のprotocolで実証的に検討することである。医療技術評価機関であるタイのHITAP、韓国のNECAとの共同研究である。調査対象はWEB上のパネルから性・年齢で層別し無作為抽出した。対象者数は2,100人であり、一人あたり2つの健康状態に対して二段階二項選択法により、0.2QALYあるいは0.4QALYを獲得できる仮想的な医療技術に対する支払意思額を調査した。健康状態はindex型QOL尺度であるEQ-5Dを用い、5つの健康状態(QOL値に応じて、重度:1状態、中程度:2状態、軽度:1状態)に死亡直前の1状態を加えた6状態に対するWTPの調査を行った。二段階二項選択法では各国で一人あたりGDP(日本は400万円とした)の5-120%まで6段階で提示し、得られた回答からnon-parametric法を用いて1QALYあたりのWTPを推計した。得られたWTPは150-500万円程度の間に分布しており、より重症であるQOL値の低い健康状態の方が1QALYあたりのWTPは大きくなっていた。またWTP=0すなわち健康状態に対して支払いを行いたくないと回答した割合は15-35%程度であったが、これらも同様に健康状態が軽度になるにつれ、支払拒否割合が増加していた。WTPは世帯所得や教育歴、雇用形態等と相関しWTPに影響を与えていた。これらの結果はpre-testとほぼ一致しており、調査結果の再現性が示された。以上から、WTPは介入対象となる健康状態の重症度(QOL値)と強く関係しており、医療経済評価を用いた意思決定において、重症度などの要素を考慮することも重要であると考えられた。
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