薬物の体内動態の変動に起因する副作用の予測に、PK、PD、PGに基づいた解析が有用なことは明白であるが、さらに個々の患者や健常被験者のデータを加えることができれば予測精度は格段に向上すると考えられる。本研究では、主要な代謝経路がCytochrom P450(CYP)1A2と報告されているチザニジンをモデル薬剤としてPK-PD-PG理論を展開し、その実用化を目指す。 具体には、チザニジンが処方された患者を対象とした調査を行い、CYP1A2阻害薬の併用実態を明らかにした。この結果に基づき、実際にチザニジンとの併用頻度が高かった組み合わせ(チザニジンとシメチジン)を用い、健常被験者を対象とした併用投与試験を実施した。この試験により得られた副作用症状(血圧低下)が、両剤の併用投与を受けている患者の血圧低下をどこまで正確に予測し得るか確認した。 チザニジンの処方実態調査から、約45%の患者でCYP1A2阻害薬が併用されていることを明らかにした。またチザニジンとシメチジンの併用投与試験より、シメチジンの併用は、チザニジンの血中濃度を1.8倍上昇させ、これに伴い、血圧が低下することを明らかにした(収縮期/拡張期血圧:-9.2/-5.0 mmHg、n=6)。これは、実際に両剤の併用投与を受けていた患者の血圧低下とほぼ同等であった(収縮期/拡張期血圧:-12.5/-3.5 mmHg、n=4)。 以上より、CYP1A2の基質であるチザニジンとシメチジンの薬物相互作用発症時の副作用症状(血圧低下)の予測には、健常被験者を対象とした併用投与試験の結果が有用である可能性を示した。一方で薬物相互作用発症時の血圧低下には個人差が大きく、健常被験者のデータのみでは患者個々の副作用予測は難しいことも明らかとなった。今後は副作用発症に影響する他の要因を明らかにして予測精度の向上を図る必要性が考えられた。
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