研究課題/領域番号 |
24659262
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
伊藤 孝司 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (00184656)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | ドラッグデリバリー / リソソーム病 / 酵素トラフィキング / 酵素補充療法 |
研究概要 |
リソソーム酵素の遺伝的欠損に基き、基質の過剰蓄積と中枢神経症状を伴うリソソーム病のうち、β-ヘキソサニミンダーゼ(Hex)Aの欠損症で、脳内GM2ガングリオシド(GM2)の蓄積症であるTay-Sachs病とSandhoff病のモデル(患者iPS細胞由来培養神経系細胞と疾患マウス)を対象とし、神経系細胞におけるリソソーム酵素のトラフィック異常の解明と細胞外リソソーム酵素のリソソーム内への輸送を促進する技術開発を目的として研究を進めた。今年度は、Tay-Sachs病患者皮膚線維芽細胞に対し、センダイウイルスベクターを用いて4種の山中ファクター(初期化遺伝子)を導入し、未分化性と多分化能をもつiPS細胞の樹立と同iPS細胞から神経前駆細胞および神経幹細胞を分化誘導する培養条件を確立し、従来困難であった患者由来神経系細胞の病態と当該リソソーム酵素のトラフィック異常を解析するための新規システムを構築した。 また細胞外から補充した組換えHexの細胞内取り込みを解析するためのプローブとして、研究協力者の浦野らが開発した人工蛍光基質Rhodol β-GlcNAcを用い、Sandhoff病モデルマウス由来のアストロサイトに取り込まれた組換えHexのin vivoイメージングに成功した。さらに組換えHexに付加されるマンノース-6-リン酸残基(M6P)を認識して結合する、カチオン非依存性M6Pレセプタードメイン9(Hisタグ付き)(CI-M6PR Dom9-His)とカチオン依存性CD-M6PRを高発現するメタノール資化酵母株を樹立し、組換えHexの精製やCI-M6PRやCD-M6PRの細胞内動態を解析するための抗体作製用タンパクとして精製を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目的としている、遺伝的酵素欠損に基き脳内基質の過剰蓄積と中枢神経症状を伴うリソソーム病の代表例であるTay-Sachs病とSandhoff病の神経系細胞におけるHexのトラフィック異常の解明と細胞外からの補充技術の開発にとって、世界に先駆けてTay-Sachs病患者iPS細胞株を樹立するとともに、同iPS細胞から神経系細胞を分化誘導する培養条件を確立した。これにより従来倫理的にも研究用生検検体としての入手が困難であった患者由来神経系細胞を研究室レベルで作製することができ、神経炎症および神経変性を伴うリソソーム病の発症機構と当該リソソーム酵素のトラフィック異常との相関を解析するための新規システムを構築できた。また細胞外から補充される組換え酵素の細胞内動態やそのトラフィキングに関わるM6Pレセプター(CD-M6PRやCI-M6PR)を解析するためのツールとして、Hex活性のin vivoイメージング用の人工蛍光基質やHisタグ付き組換えCD-M6PRやCI-M6PR domain9を作製できたため。
|
今後の研究の推進方策 |
1) H24年度、中枢神経症状を発症するTay-Sachs病患者iPS細胞株を樹立し、同iPS細胞から神経系細胞を分化誘導する培養条件を確立できたため、H25年度はTay-Sachs病患者iPS細胞から神経幹細胞株を樹立し、さらに成熟神経細胞やアストロサイトを誘導する条件を確立し、CD-M6PRやCI-M6PRに対して作製した抗体を用い、これらの細胞内トラフィキングを健常者iPS細胞由来の神経系細胞と比較検討し、疾患特異的な病態を解明する。 2) 研究協力者が開発した酸性pH活性化蛍光プローブと組換えHexとのコンジュゲートを作製し、細胞外から投与した際に、細胞内の酸性コンパートメント(後期エンドソームやリソソーム)へのデリバリーのイメージングシステムを構築し、健常者およびTay-Sachs病患者iPS細胞または野生型およびSandhoff病モデルマウス由来神経系細胞における動態を比較検討する。さらに化合物ライブラリーから、細胞外リソソーム酵素のリソソーム内への輸送を促進する化合物のスクリーニングを行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
H25年度の研究は、研究代表者の伊藤・研究室の助教・大学院生及び学部生合わせて5名程度で実施する。Tay-Sachs病患者由来iPS細胞の培養維持・凍結保存、iPS細胞からの神経幹細胞株の樹立、維持および凍結保存、または成熟神経細胞およびアストロサイトへの分化誘導培養などの細胞生物学的実験のために必要な培養用培地、増殖因子および器具、また分化マーカー遺伝子の発現解析に必要な遺伝子工学用試薬、分化抗原を検出する免疫化学用試薬を購入するための消耗品として研究費を使用する。次年度への繰越額については3月中に納品され4月までに払い済みである。
|