昨年度の報告書において、生体内で見られるような細菌の接着期待される足場材料を選択し、生体内との類似環境において培養しうるシステムの構築が、研究の成否を握る鍵であると報告した。この点に関連し、嫌気的培養環境の維持、培養液組成、pHの制御が特に重要であったが、それらを満足するシステムは構築できなかった。 しかし、特殊な実験条件ではあるが、腸内細菌組成が好気的培養環境化においてどのように変化するのか、また、pHを弱酸性に保つことによってどのような効果があるのかについて、予定していた細菌DNAを用いた定量解析やTerminal restriction length polymorphism(T-RFLP)解析により知見を得ることができた。 1. Hank’s balanced salt solutionにウシ胎児血清を添加することにより、好気的環境下でも一部の腸内細菌は増殖する。糞便からの腸内細菌を3日間培養すると、予想通り通性嫌気性菌であるEscherichia coli、Enterococccus species、Enterococcus faecalis、Lactobacillus species、などの優位の増加し、偏性嫌気性菌であるClostridium coccoides、Clostridium leptum、Bacteroides fragilis、Prevotella species、Bifidobacterium speciesなどは優位に減少した。しかし、好気的環境においても必ずしも死滅するわけではなく7日間培養後においてもBacteroides fragilisは嫌気培養によって増殖可能であった。 2. T-RFLP解析においても、好気的環境においてピーク数が優位に減少し腸内細菌の多様性が失われる傾向であった。 3. pHを弱酸性(pH4.5)に保つことにより、腸内細菌の増殖を抑制されることから、腸内細菌感染創におけるpH調節が感染コントロールに役立つ可能性が考えられた。
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