研究実績の概要 |
インフルエンザウイルス(IFV)の感染により劇症型となる重篤な肺炎を併発することがある。近年では、高病原性トリインフルエンザ(A/H5N1型)がヒトで60%もの高死亡率を示している。病態は急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)を示し呼吸不全に至る。その発症機構には不明な点は多く、現在その1番の候補として考えられている要因としてNS1タンパク質がある。近年、高病原性IFVのNS1タンパク質に共通する変異が見られることが明らかになった。 本研究では、インフルエンザ重症化因子に関連する遺伝子NS1:昨年度に引き続き、NS1遺伝子の機能について検討した。トリインフルエンザウイルスH5N1の重症化因子としてのNS1遺伝子の解析: H5N1の遺伝子変異が及ぼすNS1のたんぱく質構造変化についてシミュレーション解析により、たんぱく質構造の関与を明らかにした(Kato YS, Fukuia K, Suzuki K. Mechanism of a Mutation in Non-Structural Protein 1 Inducing High Pathogenicity of Avian Influenza Virus H5N1. Protein & Peptide Letters, in press)。具体的には、NS1のRNA結合ドメインの42番目のアミノ酸における変異が、H5N1の病原性に決定的な影響を与える。RNA結合ドメインに対する機能的な影響を調べたところ、42番目の残基がセリンの場合には、二本鎖RNAに対する結合を示したのに対し、プロリンの場合には結合を示さなかった。本解析結果から、変異によりRNA結合インターフェイスの構造に違いが見られた。一方、インフルエンザウイルス遺伝子のNS1が、どのように劇症化に関与するかを解析した結果、NS1遺伝子のPLサイトに「GSEV」の構造が関与している可能性が浮上した。具体的には、インフルエンザウイルスが肺上皮細胞に感染するとタイトジャクション分子の発現調節因子にNS1が結合しバリア機能を低下させ、劇症化肺炎を誘発する可能性が示唆された。
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