本研究において、我々は検査診断の新規バイオマーカーを開発する目的で、血液中の低分子RNAの探索を行った。 健常者と多発性骨髄腫患者のそれぞれ3名の血漿から低分子RNAを精製し、cDNA作製、PCRによる増幅の後、5から40ヌクレオチドRNAの次世代シークエンサーによる網羅的配列決定を行った。その結果、個人毎に特有のRNA分布パターンが見られ、また、健常者サンプルに比較して骨髄腫患者サンプルに有意に高頻度あるいは低頻度で存在するRNA種が多数見出された。これらの中に、多発性骨髄腫の診断マーカーとなりうるものが存在する可能性がある。 この中の1つに、機能のよく知られていない90ヌクレオチド程の細胞内RNAが切断された 31ヌクレオチドのRNA断片があった。このRNA断片は、tRNase ZLの5′-half-tRNA型sgRNAの構造をとり、実際に、モデルRNA基質を用いたin vitro切断試験によりtRNase ZLのsgRNAとして機能することが示された。また、ノーザンブロット解析により、この31ヌクレオチドRNA断片が細胞内にも存在することが示された。このRNA断片を化学合成し、ヒト培養細胞HEK293およびA549に導入したところ、細胞増殖促進効果が観察された。また、同様に、他の特徴的な17ヌクレオチドのRNA をHEK293およびA549に導入したところ、細胞増殖抑制効果が見られた。これらの結果は、tRNase ZLのsgRNAとして機能する血漿中の短いRNA分子が細胞間の情報伝達に使われている可能性を示唆している。
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