人工心肺下心臓手術後の尿中バイオマーカーの動態を調べ、急性腎障害(AKI)の早期予測因子としての可能性を検討した。新たな尿中バイオマーカーとしてメガリンに着目した。既存のマーカーであるアルブミン、α1ミクログロブリン、β2ミクログロブリン、NAG、NGALも同時に測定し、それぞれの動態を比較検討した。尿の濃度による測定値のばらつきを補正するために、各バイオマーカーの値は尿中Cre補正値を用いて検討した。 成人症例ではNAG、NGAL、Albが人工心肺離脱後早期からAKI群で有意に高値を示した。一方小児症例では、α1ミクログロブリン、NAGにおいてAKI群で人工心肺離脱直後から有意に高値を認めた。成人と異なり、NGALでは有意差は認められなかった。2歳以降の小児心臓手術症例では特に、AKI群でアルブミンが有意に高値であり、感度特異度ともに良好であった。AKI群で術後CVP値が有意に高値であり、アルブミンの漏出に影響していると考えられた。CVP高値は原疾患とその術後の特異的な血行動態と関与していると考えられる。新生児症例ではNAG、α1ミクログロブリンがAKI群で有意に高値であり感度特異度ともに良好であった。既存のマーカーでも年齢層により動態が異なることが分かった。 いずれの年齢層でも有意に高値を認めたマーカーは血清Creの上昇よりも早期にAKIを予測できた。しかし、AKI群と非AKI群で値のオーバーラップが大きく、より特異性の高いマーカー、あるいは複数のマーカーによるパネル化による診断が必要であると考える。 尿中メガリンは測定方法を工夫し、より簡便な手法に変更したこともあり、現時点では術前値のみ測定が終了している。術前値にAKI群と非AKI群で明らかな有意差は認められない。また、成人に比較して小児でメガリン値が高値であり、腎機能の発達と尿中メガリン値が関与することが示唆された。
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