研究課題/領域番号 |
24659273
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 壯一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10273450)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 遺伝子解析 / 血液標本 / 白血病 / 骨髄異形成症候群 / 新規予後因子 |
研究概要 |
骨髄異形成症候群(MDS)や白血病の一部では芽球以外の細胞の混在により、正確な検査が施行できない症例もある。また、骨髄液採取が困難な白血病(ダウン症候群に合併した急性骨髄性白血病(AML-DS)等)では骨髄液の保存自体ができない場合も多い。本研究では、白血病の診断のため、必ず施行される血液塗沫標本から芽球のみを抽出し、予後因子解析に必要な量のmRNA及びcDNAを採取する方法を確立する。本研究により、従来から報告されている予後因子のより正確な検討が可能になるだけでなく、新規の予後因子(遺伝子発現量や変異)の同定が可能となる。ダウン症候群に合併した患者検体から樹立した細胞株(KPAM1)とダウン症候群以外の白血病細胞株を様々な割合で混在した検体から、スライドグラスに血液標本を作製し、laser microdissection systemで解析可能な特殊フィルムをコーティングしたスライドグラスに血液標本を作製し、染色固定した標本からKPAM1細胞のみを抽出し、cDNAからGATA1遺伝子変異(AML-DSではほぼ全例に検出)を同定した。以上より、系の確立に成功したことが証明された。上記の研究は「急性骨髄性白血病および骨髄異形成症候群の新規予後因子探索」として、京都大学医学部医の倫理委員会に承認済み(承認番号G-516)であり、患者保護者の同意を得てTAM(ダウン症候群に合併した一過性骨髄増殖症)及びAML-DS患者の診断時に laser microdissection systemで芽球のみを抽出し、GATA1遺伝子変異が通常の骨髄液の解析時と同様に検出されるかどうかで系の確立を検証した。今後、小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)臨床試験(AML-D11)において付随研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特殊フィルムをコーティングしたスライドグラスに、骨髄液(採取直後の新鮮な検体)の塗抹標本を作製し、芽球判定可能な標本を作製することに、まず成功した。今後、多施設共同研究を施行する際には、骨髄液を搬送することが必要であるため、採取した骨髄液を3日間冷所保存し、その後、同様に血液塗抹標本を作製したが、芽球の判定は十分可能であった。次に、遺伝子発現量及び遺伝子変異解析可能なmRNA, cDNAをlaser microdissection systemを用いて抽出することが、課題であったが、mRNAのマーカーであるGAPDHの検出に成功し、すでに、当研究室で測定系を完成させているCXCR4発現量の測定も行っている。また、AML-DS細胞株(KPAM1)細胞とダウン症候群の白血病細胞株細胞を人為的に混在させた系において、同様に血液塗抹標本からKPAM1細胞のみ切り出した検体からcDNAを抽出し、KPAM1細胞ですでに検出が確認できている、GATA1変異を同定することに成功した。現在、京都大学医の倫理委員会に研究計画承認後に、京都大学小児科入院患者で、患者保護者の同意を得た、AML-DS患者末梢血検体(白血病細胞が全体の2%と少量の検体)から、血液塗抹標本を作製し、白血病細胞のみ切り出した検体から、mRNA及びcDNAを抽出し、現在、GATA1変異解析中である。すでに、JPLSG研究審査委員会に「ダウン症候群に合併した急性骨髄性白血病(AML-DS)の新規予後因子探索」研究計画書を提出し、すでに研究開始の承認を得ている。また、京都大学血液腫瘍内科との共同研究で、成人骨髄異形成症候群患者検体を用いて、血液塗抹標本から芽球のみを取り出して、遺伝子発現量、遺伝子変異解析も開始している。
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今後の研究の推進方策 |
小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)AML委員会で遂行中のナショナルスタディーである、「ダウン症候群に発症した小児急性骨髄性白血病に対する多施設共同研究(AML-D11)」の付随研究を遂行する。全国のAML-D11参加施設からのAML-DS初発時検体から、特殊フィルムをコーティングしたスライドグラスに血液塗抹標本を作製して、白血病細胞のみ、及び白血病細胞以外の骨髄系細胞をlaser microdissection systemを用いて切り出した検体から、mRNA及びcDNAを抽出する。白血病細胞のみを切り出したcDNAからGATA1変異を確認した後、白血病細胞検体と正常細胞検体のCXCR4発現量をmRNA検体にて測定する。成人骨髄異形成症候群(MDS)患者検体も、同様の手法にて白血病細胞のみ、及び白血病細胞以外の骨髄系細胞をlaser microdissection systemを用いて切り出した検体から、mRNA及びcDNAを抽出し、白血病細胞検体と正常細胞検体のCXCR4発現量をmRNA検体にて測定する。AML-DS及び成人MDS検体共に、従来の保存検体で検証されてきた種々の遺伝子発現量による予後因子の再検討を行う。De novo AMLにおいても、初発時の白血病細胞の割合が正常細胞より少ない症例は、小児、成人共に多く存在する。当研究室ではすでに、小児de novo AML検体におけるBAALC発現量、CXCR4発現量と予後との相関を検証し、高発現群はいずれも予後不良とはならなかったことを見出している(一部、未公表データ)。今後は、JPLSG AML委員会によって施行予定のde novo AML臨床試験の付随研究として、同様の研究手法でBAALC発現量、CXCR4発現量と予後との相関を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
Laser microdissection system用のスライドグラス(310,000円)、RNA抽出キット(300,000円)、96well reaction plate(180,000円), CXCR4 、BAALC測定用primer & probe (310,000円)等の消耗品及び、研究成果発表の旅費(400,000円)を計上する。
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