研究課題/領域番号 |
24659276
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
南雲 サチ子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (80537069)
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研究分担者 |
松浦 成昭 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70190402)
河口 直正 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70224748)
森 誠司 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90467506)
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キーワード | 細胞異型 / ヒストン修飾 / LINC complex |
研究概要 |
本研究は病理診断の基礎となる癌細胞の形態学的異型性の基盤を分子レベルで解明することを目的とするものである。昨年度は接着分子インテグリン、カドヘリンと構造異型に関して検討したので、今年度は病理診断のもう1つの柱である細胞異型、特に核の異型に着目して、クロマチン制御、ヒストン修飾、核膜タンパク質などの検討を中心に実施した。癌組織の均質性の観点からまず大腸癌、乳癌について免疫組織学的に検討した。ヒストン修飾、クロマチン制御に関わる分子としてH3K9me3(ヒストン3リジン9トリメチル化)、H3K27me3(ヒストン3リジン27トリメチル化)、H3S10P(ヒストン3セリン10リン酸化)、HP1α(ヘテロクロマチン関連タンパク)を検討したところ、細胞異型の高度ながん細胞にH3K9me3、HP1αの高発現が見られた。H3K27me3は異型度と関係せずに癌細胞全般に要請であり、H3S10PはM期と考えられる癌細胞に特異的に発現が認められた。ついで、核膜タンパク質としてLINC complex (Linkers of the nucleoskeleton to the cytoskeleton) の中でlaminA/C、Nesprin2、SUN1、SUN2について主として乳癌組織に対して免疫組織学的な検討を行った。その結果、癌細胞の異型度の著明なものにはNesprin2の発現低下が見られた。他の分子については有意な結果を得られなかった。上記の結果を踏まえて、H3K9me3発現の亢進している癌細胞は浸潤部に多く見られることから、H3K9me3と癌の浸潤についてin vitroで検討を行った。その結果、H3K9me3を誘導する酵素SUV39H1 (H3K9 methyltransferase) を癌細胞に遺伝子導入することで細胞遊走能、細胞浸潤能が増加する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は病理診断で重要な構造異型を中心に検討を行い、接着分子インテグリンおよびカドヘリンの発現との関連性を検討した。2年目は細胞異型に着目して、細胞異型に最も重要と考えられる核のクロマチン制御、ヒストン修飾および核膜タンパク質についての検討を行った。その結果、H3K9me3とHP1α(ヘテロクロマチン関連タンパク)が癌細胞の異型度と正の相関を、LINC complex (Linkers of the nucleoskeleton to the cytoskeleton) の中でNesprin2の発現が逆相関を示すことが明らかとなった。特にH3K9me3が癌の浸潤部に高発現していたので、癌細胞の浸潤性との関連をin vitroで調べたところ、H3K9 methyltransferase 酵素であるSUV39H1 を遺伝子導入により強制発現してH3K9me3の発現が亢進した癌細胞では細胞遊走能、浸潤能の増加が見られた。細胞の異型性はがん患者の予後に関連する報告が散見され、詳細なメカニズムは不明であるが、クロマチンのヒストン修飾が癌細胞の悪性度と関連するのは興味深いと考えられる。構造異型、細胞異型に着目して研究成果が得られ、2年間の成果としては当初の目的をほぼ達成し、満足すべきものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に構造異型を中心に、2年目に細胞異型に焦点をあてて検討を行ったので、3年目は構造異型、細胞異型を総合的に検討することが必要と考えられる。また、癌細胞の異型性(grading)ががんの予後に関連する報告が多いことから、異型性と関連する分子が癌細胞の悪性度に与える影響についても検討を加える。最終的に形態学的に異常とみなされる形態学的異型殿基盤となる分子機構の解明まで進みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額が異なった。 当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め当初予定通りの研究を進めていく。
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