研究課題/領域番号 |
24659292
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩下 達雄 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (30449011)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 片頭痛 / 気象変化 |
研究概要 |
片頭痛の発症・増悪は、自然環境によって大きな影響を受けていることは事実として認識されている。しかし、このような自然環境の変化による影響を科学的に実証することは困難であった。これまでの報告は、ある病院を頭痛で受診した患者群とその地域の気象データ(気温・気圧・湿度など)との関連性に頼り分析されていたが、病院近辺の気象データと、患者の生活地域の気象データが異なっている場合が少なくないのが現状であった。また、室内の密閉性など居住環境が向上しており、とくに気温、湿度においては冷暖房の使用により病院近辺の気象データとは大きくかい離していると考えられ、大きな一群としてとらえて分析することには無理があり、患者個人単位での詳細なデータの獲得が不可欠であった。 平成24年度は予定通り、片頭痛患者個人単位での気象データと頭痛の性状について詳細に記録する準備およびその改善作業おこなった。研究対象者は、当院外来に通院していて片頭痛と診断されている患者のなかから、頭痛発作に気象変化が関与していると臨床的に推測されている患者とした。患者個人単位で携帯型データロガーを身につけていただくことで、より詳細な気象データを記録することが可能となる。このデータロガーには、温度、湿度、大気圧の測定を15分ごとに記録すると約3ヵ月分保存することができ、すでにデータの収集をおこなっている。 頭痛発作に関しては、「頭痛ダイアリー」を利用して頭痛の発症時間や性状などを詳細に把握した。これらの情報を組み合わせて検討することが可能かどうか、データロガーの記録単位を調節し、頭痛ダイアリーの記録内容を変更するなどの調整・改良をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
準備に手間取っているところはあるが、おおむね予想範囲内ですすんでいる。 片頭痛患者個人単位での気象データ取得後に、分析・検討をおこないやすくするため、データロガーでの記録方法の改良、記録時間などの再調整をおこなっている。また、頭痛の性状について、気象変化とより検討をおこないやすくするために、これまで記録に使用していた頭痛ダイアリーのさらなる改良をおこなっている。 過去の臨床研究報告や日常の臨床経験などから、片頭痛発作は低気圧接近前後に多いことが報告されており、気圧変化との関連が強く示唆されている。本研究によりふさわしい気象変化は、低気圧の接近や前線の通過によって起こりやすいわけであるが、このような短時間の気圧変化は、春季と台風の多い秋季に集中して起こりやすいという時期的制約に強く影響され、また事前の気象予報と実際の気象変化にずれが生じることも多く、自然相手であり予定通りに進まないことが原因である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は2つの研究を並行してすすめる。 研究1:片頭痛患者個人単位での気象データについて詳細に記録し分析しやすくするため、データロガーでの記録方法の改良、記録時間などの再調整を引き続きおこなう。また、頭痛の性状について気象変化と検討をおこないやすくするために、記録に使用していた頭痛ダイアリーのさらなる改良をおこなう。これまでと同様に、外来に通院していて片頭痛と診断されている患者のなかから、頭痛発作に気象変化が関与していると臨床的に推測されている患者を選別して記録への協力のお願いを継続する。過去の臨床研究報告や日常の臨床経験などから、片頭痛発作は低気圧接近前後に多いことが報告されており気圧変化との関連が強く示唆されている。低気圧の接近、前線の通過によっておこる短時間の気圧変化は、春季と台風の多い秋季に集中して起こりやすいため、時期的制約に強く影響されることが予想される。 研究2:頭痛モデル動物を台風の接近など自然界で起こりうる程度の気圧低下(大気圧より20hPaの減圧を10分間で再現する減圧速度)から、一般的によく遭遇する気圧変化により近い緩徐な減圧速度(毎時5hPaの減圧)に暴露させることで、ヒトの頭痛が低気圧接近時や前線の通過に伴って発症、増悪する現象を動物実験にて再現する。気圧の変動については、気温・気圧調節装置を利用して暴露させる。SDラットを装置内で飼育して環境変化に順応させた後、前述のごとく気圧低下に暴露させる。気圧低下の30分後から4時間後までの設定したそれぞれの時点で、装置内においてラットから三叉神経節、脳幹を摘出してTRPV1のmRNAの発現を確認する。また、TRPV1の蛋白レベルでの発現の確認のためTRPV1の抗体を用いて免疫組織化学、western blotをおこない検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究1:データ収集・分析に関してはこれまで使用した研究費まかなうことが可能である。収集した(する予定の)データ協力者に対する具体的な方法の説明、結果説明などを図、グラフを用いておこなう際、タブレット端末の使用がより好ましく、消耗品として購入を検討する。 研究2:頭痛モデル動物を、気温・気圧調節装置を利用して一般的によく遭遇する気圧変化により近い緩徐な減圧速度(毎時5hPaの減圧)に暴露させる実験をおこなう。装置内においてラットから三叉神経節、脳幹を摘出してTRPV1のmRNAの発現を確認する。Total RNA調節はTRIzol (Invitrogen)を用いて抽出後にFirst strand cDNA synthesis kit (Invitrogen)を用いてcDNAを作成する。その後、Applied BiosystemのキットによりTRPV1のmRNAレベルを定量的に解析する。さらに、ERKリン酸化のinhibitorであるPD98059およびU0126を用いてTRPV1発現が抑制されることを合わせて確認する。また、TRPV1の蛋白レベルでの発現の確認のため、TRPV1の抗体を用いて免疫組織化学、western blotをおこない検討することを予定している。そのための、SDラットや試薬 (TRIzol、RT-PCR用試薬、plasmid、site-directed mutagenesisキットなど)を購入する予定である。さらに、これまでの研究結果について国際頭痛学会にて報告する予定であり、一部を旅費として充てる。 また、未使用額の発生は効率的な物品調達をおこなった結果であり、翌年度の消耗品購入に充当させる予定である。
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