研究課題
本邦には片頭痛の患者は約800万人いると推定されているが、片頭痛の病態は未だに不明な点が多く、治療法も発作頓挫療法にとどまっているのが現状である。気候・気象変化が疾病の発病や症状の消長に大きく影響することは広く知られており、季節病・気象病としてその概念が確立されている。片頭痛発作も低気圧接近前後に多く認められ、気圧変化との関連が示唆されており、それは日常の外来診療における経験とも一致するものである。この関係を明らかにするため、気候・気象の変化に大きく影響を受けていると感じている片頭痛患者を対象として、個人単位での頭痛の性状を記録した頭痛ダイアリーと、携帯型データロガーにより記録された気象データを収集して、データの集積をおこなっている。片頭痛は、閃輝暗点など前兆と呼ばれる症状が出現したのちに、悪心、嘔吐および光過敏などを伴う拍動性の頭痛を呈する疾患である。その発生機序について詳細は未だ明らかにされていないが、TRPV1の存在が明らかにされている脳硬膜が重要な役割を担っていると考えられている。さらに片頭痛においては、前兆に引き続き頭痛が生じることから、前兆発生に関与する皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)と呼ばれている現象が三叉神経節を活性化させる可能性が指摘されている。脳硬膜に侵害刺激を加えた際の三叉神経節におけるERKリン酸化を検討し、さらにCSDが三叉神経節におけるERKリン酸化に及ぼす影響についても実験を行った。本研究により脳硬膜にTRPV1を介した侵害刺激を加えると、三叉神経節における小型の神経細胞にERKリン酸化が起こることが明らかにされ、CSDは三叉神経節においてTRPV1を介しERKリン酸化を誘発させることも明らかにした。これらの結果は、三叉神経節に対しCSDが侵害刺激となる可能性を示すものであり、CSDと三叉神経血管系の活性化との関係に重要な知見を提示するものであると考えられた。
3: やや遅れている
これまでと同様、片頭痛患者個人単位での気象データ取得後に、その分析・解析をおこないやすくするため、記録方法のさらなる改良、記録時間などの再調整を続けながら、データの集積を続けている。過去の臨床研究報告や日常の臨床経験などから、片頭痛発作は低気圧接近前後に多いことが報告されており、気圧変化との関連が強く示唆されている。本研究において、よりふさわしい気象条件は、低気圧、台風の接近や前線の通過などであるが、これらの気圧変化は1年を通じて常に観測できるわけではなく、春と秋に集中して起こりやすいという特徴がある。片頭痛患者という人間と自然環境を相手とした臨床研究であることが、予定通り進まず遅れている最大の原因である。
片頭痛患者個人単位の臨床症状および同時期の気象データのさらなる集積を続ける。片頭痛発作は低気圧接近前後に多いと考えられているが、その確認とともに、気圧低下のレベルや暴露時間などを解析することで、発作のトリガーを検討していく。気温・気圧調節装置を使って、疼痛モデル動物(ラット)を前線の通過などで良く遭遇する程度の気圧低下から自然界で起こりうる程度の気圧変化に暴露させることでどのような変化が生じるか行動観察をおこなう。また、観察後のラットから三叉神経節および脳幹を摘出してTRPV1の発現について免疫組織染色、western blotをおこない検討する。
片頭痛患者の臨床データおよび個人ごとの気象データの集積作業において、データロガーのトラブルが起こらず、今年度は機器修理等の費用が必要なかったことから次年度に繰り越すこととなった。今後も機器のトラブルによる修理費用等が発生する可能性があり、その場合に充当する。その必要が生じなかった場合には、動物実験の試料購入の一部として使用する。
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Neuroscience Research
巻: 77 ページ: 110-119
Neuroscience
巻: 248 ページ: 345-358