研究課題/領域番号 |
24659299
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
那須 民江 中部大学, 生命健康科学部, 客員教授 (10020794)
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研究分担者 |
内藤 久雄 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90547556)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | トリクロロエチレン / 感作性 / モルモット / 肝障害 / サイトカイン / プロテオミクス / GPMT / CYP2E1 |
研究概要 |
各群10匹の雌雄のHartleyモルモットを使用した。Tangらの方法(J Occup Health, 2007)を参考にし、OECDのガイドラインに従い、トリクロロエチレン(TRI)とその代謝物トリクロロエタノール(TCE)およびトリクロロ酢酸(TCA)のマキシミゼーションテストを行った。TRIの感作率は雄70%、雌90%、TCAは雄10%、雌0%、TCEは雄20%、雌50%であった。対照群では、感作性は見られなかった。雄の皮膚の病理解析では、TRI曝露群で真皮層に局所的に好酸球やリンパ球の浸潤が見られた。TCE曝露群でも同様な皮膚障害が見られたが、TRI曝露群に比べ軽度で、頻度も少なかった。TCA曝露群の皮膚は、ほぼ正常であった。 TRI曝露群の雄の肝臓では、中心静脈周囲にリンパ球浸潤を伴う大きな巣状壊死が、局所的に観察された。TCA曝露群、TCE曝露群では、肝臓の辺縁部の一部にリンパ球浸潤や小さな壊死像などの肝障害が見られたが、その頻度や程度はTRI曝露群より軽度であった。 TRI曝露は、雄の感作性動物の血清中IFN-γ、ALTおよびγ-GTPを上昇させたが、TCA曝露やTCE曝露ではこのような現象は観察されなかった。各曝露群の肝/体重比は、対照群に比べ低値であり、TRI曝露群の雄については、非感作性動物よりも、感作性動物の肝/体重比が明らかに低かった。肝臓中のCYP2E1の発現が対照群に比べ、TRI曝露群は雄1.9倍、雌1.3倍、TCA曝露群は雄1.4倍、雌1.1倍、TCE曝露群は雄1.4倍、雌1.1倍であり、それぞれの曝露による誘導の程度に雌雄差が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度研究の達成度は80%程度である。動物実験で、親物質のみならず代謝物のTCEにも感作性があることが明らかとなったことは大きな成果であった。感作性動物の肝臓を用いて、仮説としたCYP2E1-TRI代謝物の複合体が形成されるかどうか、プロテオミクス解析をした。HSP70が検出されたが、感作性特有のものではなかった。この電気泳動では蛋白を変性するために、ついで、Blue Native PAGE法でクマシーブリリアントブルー色素を用いて、タンパク質を未変性のまま負に帯電させて泳動した。50~60kDの間に感作性動物と非感作性動物の間に発現量が異なる2つのバンドがあったので、それを切り出し、プロテオミクス解析を行った。感作性動物の肝臓に多い蛋白として、cytochrome b5が抽出されたので、電気泳動を行い、蛋白発現量を検討した。cytochrome b5の発現はTRI群で高くなっていたがTCA群でも有意に高く、しかし、弱い感作性を示したTCEでは発現量が変化していなかった。このように、抗原性のある蛋白のプロテオミクス解析は進捗していない。これが達成できていない20%の部分である。
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今後の研究の推進方策 |
1)24年度に達成できなかった部分の継続: SDS電気泳動や、Blue Native PAGE法を基盤としたプロテオミクス解析では抗原性のある蛋白の同定は無理なので、二次元電気泳動を行い、感作性動物から抗原となるたんぱく質を同定する。そこで蛋白が同定できた場合は抗体作成を業者に依頼する。 2)本来の計画に基づく研究: モルモットを使用したGMPTから、TRIには強い感作性が、代謝物のTCEにも弱いながら感作性があることが判明した。この2物質に共通しているのは、代謝にCYP2E1が関与していることである。CYP2E1の局在は肝臓ミクロソームである。しかし、細胞の表面にも少量ではあるが発現している。CYP蛋白は自身の触媒作用により生成した化学物質の活性代謝物と付加物を作成する場合がある。化学物質との付加物の生成はP450等の薬物代謝酵素の免疫原性を増大させ、変性蛋白に対する自己抗体の産生をプロモートすると解されている。これらのことから、仮説のCYP2E1-TRI代謝物の複合体にCYP2E1のエピトープがあれば、抗CYP2E1で認識される蛋白が検出されるはずである。そこで、hypersensitivity患者と対照者(TRIの曝露作業を60日以上行っているが、hypersensitivityの発症がない労働者)の血清を用いて、抗CYP2E1認識蛋白の検出を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は抗原性がある蛋白を同定して、抗体を作成する予定であったが、出来なかったため、消耗品費等を繰越す事となった。そこで、25年度は新たに二次元電気泳動を行ない、プロテオミクス解析を行うため、この費用として使用する。 この結果に基づいて、抗体作成を企業に依頼する。作成できた抗体を用いて、モルモットの血清中の抗原物質を検出する。一方、トリクロロエチレンの代謝酵素であるCYP2E1の抗体を用いて、患者の血清から認識される蛋白の同定を行う。
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