研究課題
筋委縮性側索硬化症(ALS)は主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。ALSの診断には上位ニューロンと下位ニューロン変性の所見が必要であるが、類似した症状を呈する疾患はほかにもあり、確実に診断できる特異的検査もない。また初期には所見が少なく、診断のために長期経過を観察する必要があり時間がかかる。さらに、ALSの特異的バイオマーカーはまだ世界では確立されていない。そこで、本研究では、蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)法を用いてALSの早期発見のためのバイオマーカーの探索を行った。ALS患者群の脳脊髄液と非神経変性疾患患者(コントロール)群の脳脊髄液からタンパク質を抽出し、二次元ディファレンスゲル電気泳動を行った。脳脊髄液は中枢神経系と解剖学的に近接しており、神経変性疾患において脳の変化を強く反映する。各群においてタンパク質発現量の定量解析を行った結果、統計学的に有意差の見られたスポットは全部で58個あり、そのうち24個がALS患者群で増加、34個が低下していた。検出できた58個のスポットについてMALDI-TOF/TOF/MS解析により、タンパク質の同定を行った。その結果、プロスタグランジンH2-Dイソメラーゼ、トランスサイレチン、チロキシン4、アポリポプロテインE、セロトランスフェリンがALS患者群の脳脊髄液で有意に増加していることが明らかになった。これらのタンパク質はALSの診断のバイオマーカーになる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
昨年度採取した非ALS患者の脳脊髄液を対照群とし、蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動を行いタンパク質発現量の統計解析を行ったところ、非ALS患者群内での発現変動が大きく、ALS患者との比較が困難であった。従って、本年度は、非神経変性疾患患者の脳脊髄液を採取し対照群とした。その結果、ALS患者で増加または減少しているタンパク質の同定に成功した。また、酸化損傷タンパク質解析のため、各サンプルからタンパク質100ugを濃縮・精製した。
今後は、ALS患者と非神経変性疾患患者の脳脊髄液の二次元電気泳動-ウェスタンブロット解析を行い、変動のあったスポットについて酸化損傷タンパク質の同定を進めていく。同時に、メタボローム解析法を用いて、脳脊髄液中の代謝産物を網羅的に解析する。さらに、メタボローム解析はアミノ酸や神経伝達物質の定量解析も可能であるため、本年度では各種質量分析計(GC-TOF、GC-MS、Orbitrapなど)を用いて酸化損傷されたアミノ酸の検出に挑戦する。
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