研究課題
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、中年以降に発症する難治性の神経変性疾患で、病状の進行に伴ってADL(日常生活動作)やQOL(生命・生活の質)に著しい低下をもたらす。また、ALSは上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患であるが、類似した症状を呈する疾患はほかにもあり、確実に診断できる特異的検査法はない。しかし、多くの研究から、ALSにおいて活性酸素種が神経細胞死や疾患の発症に深く関与していることが報告されている事から、本年度は、ALS患者の脳脊髄液中のカルボニル化タンパク質の解析を行った。カルボニル化は、タンパク質の不可逆的な酸化損傷の一つで、比較的長く血液中に存在している事から疾患バイオマーカーとして有用である。また、ALS患者の脳脊髄液中の低分子量の代謝産物の解析も行った。三重大学医学部附属病院 神経内科を受診したALS患者と非ALS患者から採取した脳脊髄液を精製・濃縮し、二次元電気泳動及びウェスタンブロットを併用することでカルボニル化タンパク質を検出し、MALDI-TOF/TOF MSにてタンパク質を同定した。タンパク質の酸化損傷の程度を酸化損傷度=カルボニル化相対量/タンパク質発現相対量として標準化した。その結果、カルボニル化タンパク質のスポットは246個検出され、その中で有意にカルボニル化が増加していたスポットは7個であった。また、メタボローム解析法によりALS患者脳脊髄液中の代謝産物の解析も行った結果、ALS患者でのみ認められた代謝産物が5個、ALS患者には認められない代謝産物が6個存在した。これらの代謝産物については今後さらなる研究が必要である。
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