研究課題/領域番号 |
24659303
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
冨澤 元博 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20621808)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 農薬 / 毒性 / 殺虫剤 / 精子毒性 / 生殖毒性 |
研究概要 |
衛生害虫駆除と作物保護に汎用される有機リン(OP)殺虫剤は、代謝活性化され、神経系のアセチルコリンエステラーゼの活性中心にあるセリン水酸基をリン酸化修飾することで酵素機能を阻害し、コリン作動性の神経中毒症状を誘起する。他方、OP活性体が作用する2次標的として、リパーゼを含む多様なセリン加水分解酵素群が挙げられる。我々は、OP剤投与ラットでは精子運動性低下や精子奇形率上昇が見られることを報告している。一般に生殖は脂質と関連が深いことから、OP剤による精子毒性が生殖器内脂質代謝系の攪乱によるものとの仮説を立てた。そこで本研究では、OPケミカルプローブと反応しうる雄生殖器のセリン加水分解酵素プロテオームから精子毒性に関わる未知の標的を同定し、会合する脂質メタボロームの増減を網羅的に解析することで、精子毒性メカニズムを解明することをゴールに定めた。 本年度は、インビトロ実験系を中心に検討を行った。第一に、リン酸化能の強いフォスフォノフルオリデート型蛍光プローブ(FP-TAMRA)とマウス精巣膜画分とを反応させ、この系にOP殺虫剤の活性本態であるオキソン体を拮抗させることで、セリン加水分解酵素プロテオーム中のどのタンパク質が選択的にOPオキソン体と反応するかを検討した。その結果、分子量63 kDaの脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)が潜在的な精巣中のOP化合物のターゲットになり得ることを発見した。次に、FAAHの内因性基質であるアナンダミドの加水分解アッセイ系を樹立し、OP殺虫剤オキソン体5種によるFAAH阻害実験を行い、OP化合物のFAAHへの親和性の指標としてIC50値を求めた。さらに、9週齢雄マウスにOP殺虫剤を10日間経口投与し、摘出した精巣ならびに精巣上体尾部のFAAH活性を対照群と比較したところ、OP剤投与群にFAAH活性の有意な低下が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトの完結には2年間を要するが、初年度の研究はおおむね順調に進捗している。すなわち、平成24年度は、当初の予定通り、精子形成と成熟に関わる精巣と精巣上体における有機リン(OP)化合物の潜在的なターゲットとして脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)の同定をインビトロ系さらにはマウスを用いた亜急性投与系の両システムにおいて達成している。このFAAHは、精巣中のセルトリ細胞やライディッヒ細胞のアポトーシスを制御するメカニズムの一端を担っており、精子の形成に重要な役割を果たす。さらに、FAAHは精巣上体での精子の成熟に加え、精子自体の運動性にも直接的に関与することが知られている。したがって、現在までにOP殺虫剤曝露による精子毒性に直接的に関与するターゲット候補の発見に至っており、順調な研究進捗状況であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の完結年度である平成25年度は、前年度の結果を受け、有機リン(OP)殺虫剤曝露による雄性生殖器の脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)の阻害と精子毒性の相関関係を明らかにすることを目指す。すなわち、雄ラットの精子形成と成熟に必要となる9週間にわたり、汎用OP殺虫剤フェニトロチオンを5および10 mg/kg/dayの用量で経口投与して、FAAHの活性評価、その他のセリン加水分解酵素群への影響評価(プロテオームの活性変化の網羅的把握)、精巣の脂質メタボローム解析(とくにFAAHの内因性基質であるアナンダミドのレベルを定量)、ラットの精子数の測定、精子運動率、精子形態(奇形)などを測定し、OP剤曝露と上述のパラメータとの相関関係を定義する予定である。さらに、精巣および精巣上体尾部の病理観察(アポトーシスの有無の評価を含む)を行いたい。以上の2年間のデータを基に論文の執筆、投稿を期間内に終えたい。また研究が予想以上に速く進捗する場合、精巣のセルトリ細胞やライディッヒ細胞由来の細胞株にOP化合物を投与し、FAAH阻害により起こるその後の細胞内シグナル伝達系の変化とアポトーシス機序の解析へと発展させていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の直接研究経費の執行予定を以下のように示す。物品費:800,000円;旅費:100,000円;人件費・謝金(アルバイト代、英文校閲等):100,000円;その他(委託分析等):400,000円。
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