TRAILは、癌細胞特異的にアポトーシス(細胞死)を誘導するサイトカインの一種である。さらに近年の研究により、癌予防効果を持つことが明らかにされた。しかしながら、TRAILの分泌機構が未だ十分に明らかとされていないために、その効果を十分に発揮させることができていない。一方、近年、癌との関係で注目を集めるようになってきた酵素群の一つにマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)がある。申請者らは、TRAILの分泌にMMP-8が極めて重要であることを世界で初めて見出した。さらに、本研究の目的として、MMP-8の発現を誘導する癌予防食品成分を探索することにより、新規分子標的癌予防法の開発を目指す。培養細胞を用いてTRAIL強制発現細胞株を作成し、その細胞においてsiRNAを用いてMMP-8の発現をノックダウンしたところ、上清中TRAIL量の顕著な減少を認めた。さらに、TRAILのアミノ酸配列中のMMP-8切断予測配列に変異を導入したところ、野生型TRAILの強制発現と比較し、顕著に上清中TRAIL量が減少したことから、TRAILの細胞外分泌におけるMMP-8の重要性を証明できた。 昨年度に引き続き、癌予防食品候補成分からMMP-8発現誘導成分の探索を行ったが、現在の段階では、酪酸菌を上回るMMP-8誘導成分は見出すことはできなかった。また、被験者ごとに好中球の分離条件が安定せず、改めて実験条件の見直しが必要とされた。加えて、TRAIL ELISA により上清中の分泌されたTRAIL量を測定していたが、このELISA kitの検出感度がLotによって安定しないという問題も生じた。そのため、Western blottingによる上清中TRAILおよびMMP-8の検出に切り替えた。結果として、さらなる確認実験が必要ではあるが、酪酸菌と同等なTRAIL分泌促進成分の候補が見出された。
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