大腸癌細胞HCT15において、thymidylate synthase (TS)の発現を低下させる化合物として、PI3K阻害剤であるLY294002を見出した。HCT15細胞はPIK3CAに活性型変異を有している細胞であり、その結果、PI3K/Akt経路が活性化されていることが知られている。したがって、PI3K阻害剤LY294002はこのPI3Kを阻害し、活性化Aktを抑制することで、PI3K/Akt経路を阻害する。活性化Aktによるp27の発現抑制機構が報告されていることから、Aktの活性化状態とp27の発現を検討したところ、LY294002により活性型であるリン酸化Aktが減少し、p27が誘導されていた。また、不活性化型であるリン酸化RBが減少していた。これは、LY294002によりPI3K/Akt経路が阻害され、その結果、p27発現が脱抑制されることで、RBの再活性化が生じていたことを示している。TSはRB活性化により発現抑制されることから、PI3K阻害剤によるTSの発現低下は、RBの再活性を介していると示唆される。 また前年度に用いたBRAF変異を有することでMAPK経路が活性化していることが知られている大腸癌細胞HT29を用いて、sulforaphaneを始めとする癌予防効果が報告されている食品成分を用いてのTS発現への影響を検討した。今回の検討ではTSの発現低下を示す成分は見出されなかった。
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