インフルエンザをはじめとする感染症の地域伝播の理解には、その地域における住民行動の理解が必要である。多くの場合は住民行動は年齢あるいはその属性に影響される。これらのデータを元に構築された社会接触パターン行列に関するデータは我が国ではほとんどない。そこで研究1年目に広島市に居住する住民を対象に行ったアンケート調査を実施して集計をおこない、研究2年目ではその解析をすすめ、接触行列の構築を行った。アンケートでは352標本を回収することができ、のべ39992回の接触が記録された。1日の接触回数(中央値)は、22人(範囲8-104人)であり、39%は20人以下であった。性別では明らかな違いはなかったが、年齢別に見ると13-15歳が最も高く、ついで16-24歳および6-12歳であった。また家庭の世帯構成人数ごとにみると世帯数が大きいほど接触回数が高いことが分かった。接触する場所ごとでの至近距離での接触(Physical contact)の割合を見ると家庭では70%を超えていたが、通勤・通学などの移動では約30%であった。このデータをもとに負の二項分布モデルによる接触マトリックスを構築したところ、すべての接触を含むモデルでは20歳以下の未成年層を中心に同年齢に対する接触が最も高く表され、至近距離での接触でもその傾向は失われなかったが、さらに子供と親年齢での接触密度および成人と高齢者の接触密度が増加する傾向が認められた。これらからヨーロッパで実施された先行研究と変わらない接触密度が観察された一方で、成人と高齢者との高い接触密度が観察されたことは我が国に特徴的な接触パターンの可能性が示唆された。
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