研究課題/領域番号 |
24659334
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新谷 香(石田香) 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50345047)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 心筋梗塞 / カルシウム / ミトコンドリア / カルパイン |
研究概要 |
心筋梗塞は心筋細胞の膜破綻によるnecrosisと考えられ、心筋の過収縮(収縮帯)が膜破綻の原因と信じられてきた。しかし、私達はラット左冠状動脈結紮による虚血再灌流モデルを用い、抗phospholamban(PLN)抗体導入による筋小胞体のカルシウム(Ca2+)取り込み促進処置により再灌流時の細胞質Ca2+過剰を抑制すると収縮帯領域が狭小化するが、梗塞領域はむしろ拡大することを見出した。この知見は心筋の過収縮によって生起された収縮帯が心筋梗塞に進展するという既成概念を否定するものであることから、本年度はこの抗PLN抗体導入した心臓の虚血再灌流モデルを利用して、筋小胞体Ca2+取り込み促進が梗塞進展を促進する機序について検討した。その結果、筋小胞体に取り込まれたCa2+がユニポーターを介してミトコンドリア(Mt)に移行し、Mt内Ca2+過剰を引き起こす結果、Mt内膜に存在するmitochondria permeability transition pore(mPTP)が開口し、心筋梗塞進展を加速させることを解明した。 再灌流時の細胞質Ca2+過剰は、細胞質に存在するCa2+依存性プロテアーゼであるcalpainを活性化し細胞骨格タンパク質を分解することでnecrosisに寄与する。実際、calpain阻害剤の梗塞サイズ抑制効果はよく知られている。しかし、抗PLN抗体導入は細胞質calpainの活性化を抑制したが、梗塞領域は拡大した。この原因として私達は、最近肝細胞などで存在が明らかにされたMtのcalpainに着目した。その結果、心筋細胞にもMt-calpainが存在することを確認し、再灌流時に活性化してmPTPを開口させることを見出した。これらの結果は、細胞質calpainのみならずMt-calpainも心筋梗塞進展に重要な役割を果していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は心筋梗塞がミトコンドリア障害と膜破綻のいずれに起因するのか、過収縮(収縮帯)が膜破綻や梗塞進展に寄与するのか等、心筋梗塞の診断・評価・研究に用いられてきた方法・定義・概念を再検討することにある。本年度中に私達は収縮帯の形成が心筋梗塞進展の必要条件ではないことを抗PLN抗体導入による細胞質Ca2+の筋小胞体取り込み促進モデルを用いて証明した。さらにその機序として、筋小胞体からミトコンドリアへ移行した過剰なCa2+がmPTPを開口させることを見出し、循環器学分野の一流誌に発表した。本年度の研究は概ね当初の計画通りに進行し、論文発表等の研究成果を出し、最終年度である次年度に向けて集成に入っていることから、「(2)おおむね順調に進展している。」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
虚血再灌流時の細胞質calpainの活性化は心筋梗塞進展の必要条件ではなく、Mt-calpainによるmPTP開口が重要であることを見出したので、次年度はMt-calpainが寄与する梗塞進展の分子機序を明らかにする。具体的には、Mt-calpainによって分解される基質タンパク質をプロテオーム解析等を用いて検索し、候補となった基質タンパク質のmPTP開口への関与を遺伝子改変技術等を用いて候補タンパク質のノックダウンにより解析する。最終的には、それらタンパク質の心筋梗塞の診断・評価・研究への有用性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
プロテオーム解析費用:業者に委託する 抗体作製費用:Mt-calpain基質の候補タンパク質に対する抗体が市販されていなかった場合、業者に委託して作製する。 ベクター作製費用:Mt-calpain基質の候補タンパク質のノックダウンに用いるため必要。 その他消耗品:ウェスタンブロッティング、細胞培養等に用いる試薬や器具の購入
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