研究課題
本研究はアルツハイマー病の複数モデルの動物を用いた動物実験により(1)神経変性時の生体反応としてのミクログリアを中心とした神経免疫システムの経時的推移を解析し、その神経保護作用の解明を試み、続いて(2)薬理学的治療や再生治療などの治療介入による神経免疫システムの変化を解析し、より有効かつ画期的な治療法を模索する。また可能であれば(3)神経免疫システムの障害と神経変性疾患の病態の関連を考察し、病態の解明も試みることを目的として開始した。昨年度は(1)のためのモデル動物としてより神経変性疾患の病態に近いアルツハイマー病トランスジェニックマウス(APdE9マウス)およびそのwild-type littermatesを使用して生後3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月、18ヶ月における脳組織学的解析を行った。生後3ヶ月のAPdE9マウスおよび全てののlittermatesにおいてAβ沈着は認めずミクログリアやアストロサイトも静止型のものが均等に分布するのみで大きな差は見られなかった。しかしAPdE9マウスでは生後6ヶ月以降、大脳皮質や海馬においてAβ沈着が経時的に増加する様子が確認された。ミクログリアやアストロサイトは生後6ヶ月以降でAβ沈着部周囲に集積がみられはじめ、以後生後12ヶ月までは集積面積の経時的増加を認めたが生後18ヶ月では集積面積はやや低下していた。また前シナプス蛋白synaptophysinの染色性はAPdE9マウスにおいて生後3ヶ月以後、経時的にびまん性に減少し続けていた。以上からAPdE9マウスにおいてAβ沈着がみられる以前のから可溶性のAβがシナプス毒性を発揮し、またAβ沈着によりミクログリアやアストロサイトの活性化・集積が誘発されるが、一方でAβ沈着が著明に増加した高齢時期においては却ってミクログリアやアストロサイトの機能が阻害されている可能性が推察された。
3: やや遅れている
平成25年度はアルツハイマー病モデル動物に対する治療介入として末梢からの骨髄幹細胞移植による治療介入を試みたが組織学的には優位な改善が得られなかった。また、行動記憶評価法としてモーリス水迷路も試みているが、健常マウスと未治療APdE9マウスの間での認知機能の差がなかなか得られず評価法の確立にも難渋している。以上、平成25年度以降の研究計画における「3.アルツハイマー病モデル動物の作製」「4.治療介入した各アルツハイマー病モデル動物における脳組織学的評価」「5.各アルツハイマー病モデル動物に対するミクログリア抑制的アプローチの試み」「6.健常マウスに対するミクログリア制御によるアルツハイマー病再現の試み」「7.各アルツハイマー病モデル動物に対するミクログリア制御治療と再生治療の併用介入」の進捗状況としてはやや遅れていると判断される。
今後は前述のアルツハイマー病モデルマウスに対して、引き続きモーリス水迷路などによる行動記憶評価方の確立を試みる。またα7nAChRアゴニストであるGTS-21やnAChRに対するAPL作用を有するガランタミンによる薬理学的治療を試み、脳組織学的評価、生化学的評価にて治療効果を評価する。一方、アルツハイマー病の治療においてはより早期からの治療介入を推奨する報告があり(J Neurosci 32,10201-10210)、その指標として脳内酸化ストレス状態の変化が注目されている。そこで脳内酸化ストレス状態をモニターしてより早期の治療導入判断に応用できる手法についての検証も予定している。
平成25年度は本来、各モデル動物に対する治療介入を様々に試みる計画を立てていたが行動評価法の確立も含め進捗状況が当初予定より遅れが生じ、実行できなかった治療介入が多かった。そのため各種治療介入に使用する予定であった試薬の購入に至らず物品費が当初予定より少額になり次年度使用額が生じた。α7nAChRアゴニストであるGTS-21やnAChRに対するAPL作用を有するガランタミン、その他、新規のα7nAChRアゴニストやコリンエステラーゼ阻害剤などの治療介入試薬や組織学的評価用の試薬、その他、酸化ストレス評価用の試薬や機材使用費、学会発表用の学会参加費や旅費、論文投稿費用などに使用する予定である。
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