研究課題/領域番号 |
24659357
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
伊藤 英晃 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80168369)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 分子シャペロン |
研究概要 |
正常細胞内でHSP90が癌を抑制する機能と,癌細胞内で癌の悪性度に関与する機能に関して,以下の様な仮説を立案した。 ①細胞の癌化に伴い,分子シャペロンが複合体を形成し,癌抑制遺伝子p53の変位型と結合し,変位型p53をアンフォールドし,さらにHSP90が野生型p53への正しい変換を試み,細胞の癌化を阻止する。 ②上記機構が破綻した場合には,癌細胞を悪性化する酵素の一つであるPolηの活性化には,HSP90が単独,またはシャペロン複合体との相互作用が必須となり,(Polηの非活性化状態 → 活性化状態),結果として癌を悪性化する。癌細胞内では変異タンパク質が粗製濫造されるため,分子シャペロンも正常細胞とは異なる構造や機能を有する可能性が大きい。 ③正常細胞内のHSP90と癌細胞内のHSP90に対する17-AAGの親和性の相異は,Polηに結合するHSP90の構造変化(シャペロン複合体形成の結果?)によるものである。 ④正常細胞でp53と結合するHSP90と,癌細胞内のPolηに結合するHSP90は,構造様式やクライアントタンパク質の制御様式が異なる。 以上を予測して研究を実施した。本研究では,細胞の癌化に伴う分子シャペロンHSP90・p53・Polηとの相互作用機構を解析した。HSP90とPolηの相互作用をプルダウンアッセーで確認できた。また,HSP90とp53の相互作用に於いて,正常p53と変異p53ではHSP90十の相互作用に差があることが判明した。引き続き,癌細胞内での相互作用を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,細胞の癌化に伴う分子シャペロンHSP90の制御機構を,生化学的に明らかにする。癌抑制遺伝子p53とHSP90の相互作用,及び癌の悪性度を規定する分子DNA Polymerase η (Polη)とHSP90 の相互作用を明らかにし,正常細胞と癌細胞におけるHSP90の役割分担を解明する。 具体的には癌の種類や悪性度と HSP90 の相関,及び,HSP90・p53・Polηとの相互作用を解析する。すなわち,正常細胞における癌抑制遺伝子p53のHSP90による制御機構,癌細胞におけるHSP90とPolηの相関と生理機能を解析する。「p53が如何にして細胞の癌化を抑制するのか」,また「癌の悪性度(ステージ)を規定するPolηはHSP90により如何なる制御を受けるのか」を解明する研究内容である。従来癌研究は,癌遺伝子等からのアプローチが殆どであり,分子シャペロンHSP90を基盤とする本申請研究は極めて独創的であり,予想される結果とインパクトは極めて高い。本申請研究は,細胞の癌化機構の本論を解析できる可能性が極めて高い。 現時点では,in vitroの系での研究結果を得ており,今後,in vivoでの実際の病変組織を用いて解析することにより,本申請研究の成果が確認できる。
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今後の研究の推進方策 |
細胞の発癌実験としては,発癌剤のみ,イニシエーター+プロモーターの2段階投与でも確認する。細胞の癌化に伴い,細胞の明確な形態変化が確認され得る。また,ソフトアガーでのコロニー確認や,fociの数を確認するのと同時に,そのfociをクローニングして,ソフトアガーや造腫瘍性で悪性度を検討する。 これら化学物質の長期投与により,癌化誘導細胞内のHSP90の存在様式を解析すると共に,細胞癌化のどの段階で分子シャペロン複合体が形成されるのかを明らかにする。細胞癌化過程に於いて,どの段階でHSP90-p53とHSP90-Polη複合体が形成されるのかを,免疫沈降法等で明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
化学発癌物質(イニシエーター,及びプロモーター)投与細胞における,HSP90の存在様式の解析イニシエーターとしては,ベンゾピレンとメチルコラントレンを使用する。細胞内に取り込まれたベンゾピレンは,酸化時には大きな付加物としてDNAに結合するため塩基間の対合が出来なくなり,この障害を乗り越える際に誤った塩基が取りこまれ変異ができ,その結果,癌細胞に変わるものと考えられている。メチルコラントレンなどの化学発癌剤はミトコンドリアに強い親和性を示すことが報告されており,mtDNAはミトコンドリア内で酸化的リン酸化により常に発生する活性酸素種にさらされており,その修復機構が十分でないことから突然変異が発生・蓄積しやすいと推察されている。これらのことからmtDNAに突然変異が蓄積することによって細胞が癌化すると言う『癌ミトコンドリア原因説』が提唱されている。プロモーターとしてはリトコール酸(LCA)とOkadaic acid を使用する。LCAは肝毒性があり,腸に癌を誘発する可能性が報告されている。また,Okadaic acid は非TPAタイプのプロモーターとして知られているため使用する。発癌性のない物質としては,カプロラクタムを使用する。カプロラクタムは,ヒトに対しておそらく発癌性はないものと考えられている。正常細胞である正常ブタ腎臓近位尿細管細胞LLC-PK1細胞やマウス線維芽細胞(Neuro 2A)等に,発癌イニシエーターとして報告されているベンゾピレンとメチルコラントレン処理を施すことによって,癌化を誘導作用させ,細胞の形態変化等を観察する。プロモーターとしてリトコール酸や,Okadaic acidを細胞内に投与し,正常細胞から癌細胞への誘導を試みる。
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