様々な慢性肝疾患において、「鉄」の沈着が認められる。過剰な鉄は酸化ストレスを惹起するため、このような状態の肝組織からは鉄を排出させることが望ましい。過剰な鉄の蓄積を防ぐために、多重の鉄代謝制御機構が存在することが知られているが、驚くべきことに、鉄の「排出」に関わる因子としてはFPN1と呼ばれるトランスポーターただ1つしか同定されていない。これに対し代表者らは、酸化ストレス防御に中心的な役割を果たす転写因子Nrf2に関する研究から、Nrf2により発現制御されるFPN1以外のトランスポーターが、鉄排出に関与しているという知見を見出した。そこで本研究では、代表者らがこれまでに得た網羅的なNrf2制御遺伝子データベースを利用することにより、新規鉄排出トランスポーターを探索することを目的とした。 昨年度までに、野生型、Nrf2欠損マウス肝組織のmRNAを用いてマイクロアレイ解析を行い、そのデータから鉄代謝に関連する遺伝子を抽出、さらにその発現がNrf2に制御されていると思われる遺伝子の抽出を行い、SLC40A1、HFE、FECH、CYBRD1、ISCU、SLC25A37、TFRCを候補遺伝子とした。今年度はこれらの遺伝子をクローニング、MEF細胞を用いた強制発現系を作成し、トランスフェリン鉄の取り込み、排出実験を行った。結果、残念ながらすべての遺伝子について、有為な鉄排出の増加は認められず、新規なトランスポーターの発見には至らなかった。
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