これまでの研究で、蛋白質架橋酵素トランスグルタミナーゼ2(TG2)が発生に伴う生理的血管形成に影響なく、移植癌細胞による栄養血管形成に働くことを見出した。本研究は、腫瘍や線維化に伴う病的血管新生に特異的に作用する標的分子を同定して、TG2並びに同標的分子の特異的阻害剤を見つけ出すことによって、病的血管新生のみを特異的に抑えることにより、線維化・癌を増悪させず、組織修復を可能にする技術開発の可能性の有無を検討した。 1、腫瘍血管新生の分子機構を詳細に検討したところ、TG2によるRBタンパク質の架橋・リン酸化修飾による転写因子E2F活性化、EZH2発現誘導、VASH1発現抑制が必須であることを野生型及びTG2欠損マウス由来肺動脈内皮細胞を用いて実証した。動脈リングex vivo病理学的血管新生プロセス解析モデルでは、TG2特異阻害剤R281/R283を用い動脈リングの血管新生が阻害されるのを確認した。 2、TG2の発現に依存して変化する遺伝子産物の網羅的探索をGene Chipを用いて行った。その結果、TG2欠損血管内皮細胞では血管新生抑制因子のVASH1の発現が亢進していることが分かった。そこで、TG2によるVASH1を介した腫瘍血管新生抑制機構を明らかにするために、TG2/VASH1ダブル欠損マウスを作製した。 3、TG2により架橋されるマトリックス蛋白質断片の網羅的探索を行うために、肝類洞壁内皮細胞を野生型とTG2欠損マウスより単離した。 4、食品素材よりTG2核局在を標的とした病的細胞死制御剤を同定するために、ウコンから抽出した画分から有用な画分を決定した。正常肝細胞を抽出画分入りの培地中で培養した後に、細胞質と核におけるTG2活性を定量した。その結果、ウコン抽出画分の一つがTG2の核局在、もしくは核での活性を強く阻害することを見出した。
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