重症心不全に対する、人工多能性幹(iPS)細胞を用いた再生療法が期待されている。Wnt分子や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの増殖因子は心筋細胞分化促進効果や心筋保護作用などを有しており、これらの因子によるシグナル伝達を制御することは、iPS細胞からの効率的な心筋細胞誘導だけでなく、移植後の生着効率の改善にも繋がると考えられる。しかし、増殖因子の生体投与は移植細胞以外にも作用するため、その副作用が懸念される。また、Wnt分子は、生体で安定して作用する組換え蛋白質が精製困難な状況である。そこで、本研究では、生体において安定でかつ毒性のない小分子リガンドに応答する人工受容体を用いて増殖因子のシグナル伝達を制御する方法を開発し、これを細胞治療へ応用した次世代心筋再生療法の基盤を構築する。 はじめに、G-CSF結合領域あるいは細胞外ドメインすべてを、抗フルオレセイン(FL)抗体のsingle chain Fv (ScFv)に置換したキメラG-CSF受容体を作製した。この受容体は、BSAに複数のFL分子を修飾したBSA-FLがリガンドとして結合すると、ホモ二量体を形成しシグナル経路を活性化すると考えられる。そこで、キメラG-CSF受容体を安定発現するマウスES細胞株を樹立し、分化培養過程で、代替リガンドであるBSA-FLにより刺激し、それぞれのシグナル経路の活性化を検証したところ、G-CSF受容体経路の下流の転写因子STAT3においてリン酸化が誘導されることを確認した。現在、iPS細胞株においても、同様の安定発現株を作成し、分化誘導後、代替リガンド刺激において心筋細胞分化効率、細胞死抑制効果などを確認中である。
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