研究課題/領域番号 |
24659406
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
中里 雅光 宮崎大学, 医学部, 教授 (10180267)
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研究分担者 |
松元 信弘 宮崎大学, 医学部, 助教 (70418838)
柳 重久 宮崎大学, 医学部, 助教 (60404422)
坪内 拡伸 宮崎大学, 医学部, 医員 (60573988)
有村 保次 宮崎大学, 医学部, 助教 (70534080)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 急性肺損傷 / グレリン |
研究概要 |
急性肺損傷(acute lung injury;ALI)は、急速に重篤な呼吸不全に陥る難治性疾患である。ALIの特徴は、好中球集族に伴う肺胞上皮細胞損傷と、それに引き続く非心原性肺水腫である。最終的に肺線維化に陥り、非可逆性の肺構築荒廃に至る。ALIの発症機序は不明で、既存の薬物療法の有効性は実証されていない一方、死亡率40%以上と高い致死率を呈することから、同病態の発症機序の解明と新規治療法の開発は急務の医療課題である。本研究ではグレリンのALIにおける病態生理学的意義を基礎と臨床の両面から解析した。基礎研究では、グレリン発現誘導効果のある六君子湯によるALI進展抑制機構を評価した。C57BL6マウスにブレオマイシンを気管内投与することでALIモデルを作成し、六君子湯の抗炎症作用、抗線維化作用を検討した。その結果、蒸留水群と比べて六君子湯群において肺損傷後の生存率改善を認め、気管支肺胞洗浄液中の総好中球数と蛋白含有量が低下していた。また、六君子湯群では摂餌量の増加、体重減少幅の改善、肺コラーゲン含有量の低下、肺組織像で線維化の軽減を認めた。以上の結果から、六君子湯投与がマウスALIモデルにおけるALI進展抑制に有用であることが示唆された。臨床研究では、ALI患者の血中グレリン濃度と重症度との関連性を解析するため、ALI /ARDS患者 34例について、ALI/ARDS診断時に血漿グレリン濃度を測定し、重症度との関連を解析した。ALI/ARDS患者において、血漿グレリン濃度は血清CRP値と正相関があった。また、血漿グレリン濃度はAPACHE IIスコアと正相関があった。これまでの結果ではグレリン値と転帰との間に相関がなかったが、死亡例でグレリン値が高い症例が散見された。以上の結果から、ALI/ARDS症例において、血漿グレリン濃度は重症度を反映している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
基礎研究では、グレリン発現誘導効果のある六君子湯のALIに対する進展抑制機構について評価した。C57BL6マウスにブレオマイシンを気管内投与することでALIモデルを作成し、六君子湯の抗炎症作用、抗線維化作用を検討した。ブレオマイシン投与1週後の気管支肺胞洗浄液中総細胞数、総好中球数、蛋白含有量、投与2週後のKaplan-Meier生存曲線、摂餌量、体重変化量、肺コラーゲン含有量、肺組織像を評価した。その結果、蒸留水群と比べて六君子湯群においてブレオマイシン投与後の生存率改善を認め、気管支肺胞洗浄液中の総好中球数と蛋白含有量が低下していた。また、六君子湯群では摂餌量の増加、体重減少幅の改善、肺コラーゲン含有量の低下、肺組織像で線維化の軽減を認めた。以上の結果から、六君子湯投与がALI進展の抑制に有用であることが示唆された。臨床研究では、ALI患者の血中グレリン濃度と重症度との関連性を解析するために、ALI /ARDS患者 34例について、ALI/ARDS診断時に血漿グレリン濃度を測定し、重症度との関連を解析した。ALI/ARDS患者において、血漿グレリン濃度は血清CRP値と正相関があった。また、血漿グレリン濃度はAPACHE IIスコアで評価した重症度と正相関があった。これまでの解析結果ではグレリン値と転帰との間に相関がなかったが、死亡例ではグレリン値が高い症例が散見された。以上の結果から、ALI/ARDS症例において、血漿グレリン濃度は重症度を反映している可能性が示唆された。以上、本年度は予定通り基礎と臨床の両面からALIにおけるグレリンの病態生理学的意義について解析を行った。その成果を国内学術講演会で発表し、また英文雑誌に論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、基礎研究ではグレリン発現誘導効果のある六君子湯のALIに対する進展抑制機構について評価し、ALIモデルマウスにおける肺水腫と肺線維化抑制に六君子湯が有用であることを見出した。また臨床研究では、ALI患者34例の血漿グレリン濃度と重症度との関連性を解析し、血漿グレリン濃度がALI/ARDS症例の重症度と相関している結果を得た。これまでの解析結果をもとに、基礎研究では、グレリン受容体欠損マウスを用いてALIモデルを作成し、グレリンによる肺傷害の抑制効果を解析する。また、肺上皮細胞バリア保護に対するグレリンの作用機構を解明する。臨床研究では、さらに症例を蓄積し、ALI患者の血漿グレリン値と重症度との関連を解析する。以上の方策により、ALIにおけるグレリンの役割の解明と医療応用へのトランスレーションを推進し、最終的には、難治性病態であるALIに対するグレリンを用いた有効な治療法を創出することを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)ALI患者のグレリンの病態生理学的意義の解明 ALI患者を対象に、入院時の血中グレリンを測定し、60日死亡率、28日人工呼吸器離脱率、PaO2/FiO2比、多臓器不全合併率、血清KL-6値、炎症性サイトカイン(IL-8, TNF-α, IL-1β, IL-6)との関連性を解析する。 (2)ALI進展制御におけるグレリンの機能解析 既に作出しているグレリン受容体欠損マウスを用い、ブレオマイシン気管内投与(6単位/kg)してALIモデルを作成する。投与前、7日後、14日後の肺を摘出し、組織学的評価(肺水腫、肺内への炎症細胞集族、肺線維化)、気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞数と蛋白濃度、肺コラーゲン含有量を対照群と比較する。 (3)肺上皮細胞バリア保護に対するグレリンの作用機構の解明 すでに作成済みの肺胞上皮細胞特異的にGFPを発現するマウスにブレオマイシンを気管内投与し、同日よりグレリンもしくは蒸留水を1日2回連日腹腔内投与する。投与前、3日後の肺を摘出し、GFP+/TUNEL+細胞を比較検討する。また、グレリンの肺胞上皮イオンチャネル発現制御に与える影響の検討について、ALIモデルマウスにグレリンもしくは蒸留水を1日2回連日腹腔内投与し、投与開始前と7日後の肺を摘出し、ALI時での肺胞腔内fluidのクリアランスに重要な膜蛋白である肺胞上皮イオンチャネル(ENaC、Na+/K+ ATPase、CFTR)の発現を免疫染色にて評価する。さらに、グレリンの細胞間隙構造蛋白制御に与える影響について、ALIモデルマウスにグレリンもしくは蒸留水を1日2回連日腹腔内投与し、投与7日後の肺を摘出し、Cldn-4, E-cadherinの発現をウエスタンブロッティングにて測定する。
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