研究概要 |
急性肺損傷(acute lung injury;ALI)は、急速に重篤な呼吸不全に陥る難治性疾患である。ALIに対する既存の薬物療法の有効性は実証されておらず、死亡率40%以上と致死率が高いことから、同病態の発症機序解明と新規治療法の開発は急務の医療課題である。本研究はグレリンのALIにおける病態生理学的意義を基礎と臨床の両面から解析した。基礎研究では、ブレオマイシン気管内投与ALIモデルを用い、グレリン発現誘導効果のある六君子湯(RKT)によるALI進展抑制機構を評価した。RKT群は対照群と比較し肺損傷後の生存率が高かった。RKT群では肺損傷後の肺実質炎症細胞浸潤、上皮細胞アポトーシス細胞数、急性肺水腫、肺線維化の軽減がみられた。RKT群では肺損傷後の摂餌量増加、体重減少幅の軽減がみられた。RKTのALI軽減作用機序について、RKT群では肺損傷後のTNF-alpha, IL-1beta, IL-6, TGF-beta発現とNF-kappa B経路活性化が抑制されていた。RKT投与は肺損傷後の血漿グレリン濃度を上昇させた一方で、RKT投与はグレリン欠損マウスおよびグレリン受容体欠損マウスにおいても肺損傷後の急性肺水腫と肺線維化を軽減させた (Tsubouchi, Nakazato, et al. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2014)。臨床研究では、ALI/ARDS患者34例の血漿グレリン濃度を測定し、重症度との関連を解析した。ALI/ARDS症例おいて血漿グレリン濃度は血清CRP値とAPACHEIIスコアと正相関があった。血漿グレリン濃度と予後には相関がなかったが、死亡例においてグレリン値が高い症例がみられた。以上の結果からALI/ARDS症例において血漿グレリン濃度は重症度を反映している可能性が示唆された。
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