研究課題/領域番号 |
24659411
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 秀美代 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (30422314)
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研究分担者 |
小笠原 徹 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (20359623)
内田 俊也 帝京大学, 医学部, 教授 (50151882)
福島 重人 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (60625680)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | siRNA治療 / 腎移植 |
研究概要 |
腎移植後の慢性拒絶反応に対しては現在あまり有効な治療法がなく、腎生着率が移植後年々低下するのはこの慢性拒絶反応のためであり、慢性拒絶反応の実態は腎血管で生じる炎症反応である。一方、siRNAは特定の遺伝子の発現を効果的に抑制するため、病態特有の遺伝子を抑制することで様々な病態の治療が期待されているが投与後すぐ生体内では酵素分解を受け、腎臓から即座に排泄され、抗原認識されて破壊され、その上細胞膜を超えて目的細胞の細胞内に入れない。このためsiRNA単独では治療に用いることは困難である。そこで治療のためにはsiRNAを分解、排泄から守り目的細胞の細胞膜を超えて細胞質まで送り届けるsiRNAキャリアが必要である。このキャリアに炎症を抑制するためのsiRNAを搭載することで腎血管特異的に炎症反応を抑制し、腎移植の慢性拒絶反応を回避して移植生着率を上げることが当研究の目的である。 第一年目の今年は、siRNAキャリアの精密設計とその動態の確認を重ねて行った。一方このキャリアはsiRNAを送り届けた後では速やかに分解・排泄され、生体蓄積性がなく、副作用がないことが求められる。更にこのキャリアに腎臓の血管内皮に親和性を持たせ、腎血管特異的にsiRNAを集積する機能を持たせることでより効率の良い治療が可能である。siRNAの血中での安定性と組織特異性集積について、我々はこの一年、更にキャリアの改良とその生体内動態の確認について試行錯誤を続けてきた。具体的には生体適合性を持つポリエチレングリコール(PEG)の重合度とその形態の変化によりsiRNAを保護する機能を工夫し、天然タンパク質であるリシンの正電荷を利用してsiRNAの負電荷と結合させるその比率にも工夫を加えた。その結果、siRNA保護力により優れ、副作用の特に認められないsiRNAキャリアを我々は開発できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初に使用するつもりであったsiRNAキャリアに我々は前述のように更なる工夫を重ねた。具体的にはポリエチレングリコールによるsiRNAの保護効果とリシンによるsiRNAとの静電相互作用による結合の形態に対し、重合度と形態の両方に一つずつ改良点をみつけては新たなキャリアを作成し、その効果(キャリアに蛍光標識のついたsiRNAを搭載して生体内での分布をミクロとマクロで確認した。同様に、血中滞留性も確認した。)と副作用のないことをvivoで確認するということを繰り返した。その結果、生体内でのsiRNA保護力と、腎臓への集積性に優れ、結果として目的細胞の細胞膜を超えて細胞内へ効率よくsiRNAを到達させることのできるキャリアができた。従って治療のためのキャリア作成としては当初の予定以上のもの出来ているのだが、キャリア作成のための工夫に時間と労力を当初の予定よりも注いだ。このため、まだ搭載するsiRNAの配列の決定(当初の予定では一年でここまで行うつもりであった)にまでは至っていない。ただしよりよいsiRNAキャリアの開発はこの研究の根幹を成すものなので、研究全体の達成度を考えると、時間はかかってしまったが現在開発中のキャリアを完成することでより効率のよいsiRNA治療による腎移植拒絶反応の抑制が可能になると思われる。現在は、念のためより完成したキャリアに対するより完全な検証(細胞内にまでインタクトなsiRNAが入っていること、副作用がないことなど)を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(H25年度)は、試行錯誤を繰り返して完成した、腎移植拒絶反応抑制のためのsiRNAキャリア完成の最終段階として血管内皮に対するリガンドを付けるつもりである。これによって腎血管への集積性は格段に増すと考えている。リガンド付きキャリアに蛍光付きsiRNAを搭載してそのマクロでの分布(腎臓に集積している)と、ミクロでの分布(腎臓の中でも血管に集積し、血管の内皮細胞細胞質に入り込んでいる)を確認する。一方ではそれと同時に搭載する炎症抑制のためのsiRNA配列(TGF-β、IL6, などを候補として考えている)を選択する予定である。このsiRNAの選択と機能確認にはvitroにおけるtransfectionで最初のスクリーニングを行い、その後はvivoへの投与でmRNAや蛋白発現などが抑制されていることをリアルタイムPCRやウェスタンブロットで確認する。こうしてsiRNAキャリアが完成し、最適なsiRNA配列が決定した後は実際に腎移植ラット(マウス)において腎移植後の拒絶反応を低減させる効果があるかどうかを検証する。具体的にはマウス(またはラット)に腎移植を行い(マウスまたはラットに腎移植ができる技術を持っておられる大阪医大の東先生に移植は了承いただいている)、移植直後(あるいは直前)からキャリアに搭載した治療用siRNAを尾静脈から投与し、移植後の移植腎の生着率をみると共に、腎臓における炎症の程度を血液、尿、そしてある一定期間経過後には組織染色で比較検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず最初に現在ようやく最適化したsiRNAキャリアを大量合成する(これまでは多種類にキャリアを少量ずつ作っては検討していたが今度は一種類を大スケールで作成する)。次に、幾つかのリガンドを作成してこのキャリアに付ける。このキャリア作成費が必要である。この時点でもう一度どのリガンドがvivoで腎血管への集積性を最も効率よく上昇させるかをミクロ、マクロで再確認する。このために動物及び蛍光付きsiRNAが必要である。同時に炎症抑制性のsiRNA配列を少量ずつ多種類合成してvitro, vivoで比較し、最適な配列を選択する。ここでsiRNA作成費が必要である。他にリアルタイムPCRのためのプライマー、酵素、ウェスタンブロットのための抗体なども必要である。もし可能ならばその先の腎移植まで行いたいが、これは来年度になるかもしれない。腎移植を行う場合は大阪医大の東先生の研究室で行っていただくので大阪と東京を何度も行き来する必要があり、交通費が必要である。また、キャリア作成などの途中経過までを学会で発表したり論文にする場合には、学会参加費なども必要である。
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