研究課題/領域番号 |
24659411
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 秀美代 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (30422314)
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研究分担者 |
小笠原 徹 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (20359623)
内田 俊也 帝京大学, 医学部, 教授 (50151882)
福島 重人 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (60625680)
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キーワード | 腎移植拒絶反応 / 腎不全 / siRNAデリバリー |
研究概要 |
腎不全に対する透析療法を受けている患者数は我が国では多く、1兆円/年以上の費用をかけているが、透析療法ではQOLの低下が認められ、心血管系障害を起こしやすい。一方、腎移植ではQOLも生命予後も改善し、かかる費用は透析の1/3であるが、生着率も生存率も移植後直線外挿的に下降する。この移植腎の生着率の経時的低下は慢性拒絶反応のためであり、この慢性拒絶反応の原因は腎血管で起こる炎症である。特定の遺伝子を抑制するsiRNAを用いた治療でこの拒絶反応を阻害することで腎生着率を上げることを目的に当研究を行う。 siRNAは非常に不安定であり、そのままで体内に入ると即座に酵素により分解、排泄される。そこで当研究ではまずsiRNAをインタクトなまま目的組織に運び、目的細胞内にsiRNAを入れて、その機能を発揮させることができるsiRNAキャリアをデザインして作成することから始めた。 siRNAキャリアとしてPEG-PLLキャリア(生体適合性のポリエチレングリコールに、天然アミノ酸であるリシンを結合させた。リシンは正電荷を持つため、負電荷のsiRNAと静電相互作用で結合する)の他、PEG-Ornキャリア(同様に、オルニチンも正電荷を持つ天然アミノ酸である)、PEG-PLL-cRGDキャリア(サイクリックRGDリガンドが血管内皮に結合する)などを作成した。上述のキャリアはいずれも一分子に1 siRNAを含む。そしてPEGの重合度と形(直鎖、分岐)、リシンやオルニチンの電荷数、分子径などを精密にデザインし、厳密に作成し、siRNAとキャリアの会合度が濃度に依存せず一定となるように構造を工夫し、そのキャリアに乗せたsiRNAの体内分布と遺伝子抑制効率を詳細に検討した。これらのキャリアは血中投与で目的部位siRNAを集積させ、目的部位でsiRNAを離すことで機能を発現させることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定ではsiRNAデリバリーに用いるナノキャリアーとして、生体適合性のポリエチレングリコールに、天然アミノ酸であるリシンを付けたもの(PEG-PLL)を用いて検討を進めてきた。ここでリシンは正電荷を持っており、負電荷を持つsiRNAと静電相互作用で結合する。ポリエチレングリコールの重合度と鎖の形(直鎖状、分岐など)、リシンの長さによってsiRNAに対する結合形態、保護力や、目的部位への集積率、siRNAこ遺伝子抑制効率が変わってくるが様々な検討を重ねた結果、最もsiRNAキャリアとして優れているものを選択できた。当初はこの後すぐvivoの検討に入る予定であったが、リシンの代わりにオルニチンという正電荷を持つ天然アミノ酸を付けたキャリアや、キャリアにcyclic RGDリガンドを付けて、キャリアが血管内皮に結合し易くしたキャリア、他にsiRNAをミセルの形態にしてPEG-PLLで周囲を覆ったものなど様々なキャリアをも比較検討することにし、これらをデザインして作成するのに時間がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、siRNAキャリアとして最適なPEG-PLLキャリアの他、PEG-Ornキャリア、PEG-PLL-cRGDキャリアを当研究のためにデザインし、作成した。これらの中で最も炎症を起こしている腎血管に集積してその細胞内にsiRNAを効率よく入れることのできるキャリアを現在は比較検討中である。一方、次にキャリアに搭載し、実際に移植の拒絶反応抑制移植に際して用いるsiRNAも同時に比較検討している。siRNAのターゲットとする遺伝子はTGFβ、TNFα、IL6などの炎症性サイトカインの他、CD40, CD40 ligand, CD28などのリンパ球活性化因子を考えている。キャリアとsiRNAの両方を最適化した上で、実際にラットで腎移植を行ってその拒絶反応の抑制効果を検討する予定である。腎移植に関しては、泌尿器科医師であり実際にヒトの移植を行っている先生方に依頼し、了承済みである。
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