研究課題/領域番号 |
24659414
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤中 秀彦 新潟大学, 医歯(薬)学総合研究科, 非常勤講師 (20447642)
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研究分担者 |
山本 格 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30092737)
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キーワード | バイオマーカー / データベース / 尿蛋白質 / 尿細管 |
研究概要 |
腎疾患尿バイオマーカー候補として既に複数の蛋白質が報告されてきた。例えば尿NGALは急性腎障害の際に血清クレアチニンの上昇に先立って増加するとされるが、これは血漿に由来する蛋白質であり、通常糸球体で濾過され、近位尿細管で再吸収される。近位尿細管傷害時には再吸収が低下するため尿中に増加するものであり、これが正常腎臓において近位尿細管特異的に発現している蛋白質ではないし、近位尿細管部位で生理的役割を持つものでもない。我々は他に新規尿バイオマーカーとして、血漿に由来しない、腎臓の特定のネフロン部位に発現し、かつその部位で何らかの生理的役割を持つものを同定したいと考えた。それら複数の蛋白質の尿中排泄の検討により、腎臓の状態を全体として把握しうると仮定した。 2つのデータベース(DB)から、腎臓に由来する尿蛋白質を糸球体由来群、近位尿細管由来群、遠位尿細管由来群、集合管由来群に分類した。まず免疫染色による蛋白質発現DB(The Human Protein Atlas)の利用により、腎臓内で尿細管特異的に発現する蛋白質を468個同定、さらに尿プロテオームDBの併用により102個を「尿中に排泄される尿細管特異的蛋白質」と確認した。102個の多くは近位尿細管由来であり、遠位尿細管由来は22個であった。なかでもCALB1については、遠位尿細管傷害時に腎臓内蛋白質発現が低下、また尿中蛋白質排泄も低下することをヒト・ラットで確認し、英文誌に発表した(Clin Exp Nephrol. 2013 Jul 18.)。CALB1は遠位尿細管管腔からのカルシウム再吸収に関与することが知られ、遠位尿細管傷害時にCALB1の発現が低下すると尿カルシウム排泄が増加すると予想される。実際ラット抗GBM腎炎において、腎臓内遠位尿細管におけるCALB1発現低下、尿中CALB1低下、尿カルシウム増加が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
尿中に排泄される尿細管特異的蛋白質102個の解析がある程度行われ、CALB1を含めた複数の蛋白質が我々の目的に適う新規尿バイオマーカーになる可能性の検討が進展している。おおむね順調と自己評価したのは、実験系が確立できたことが大きい。使用したCALB1の抗体とプライマーは、それぞれWestern blottingとリアルタイムPCRに感度よくかつ少ない非特異で使用できることが分かったので、その使用により、試料(腎組織および尿)や実験手技・試薬等に問題ないことが確認できた。 上記102個の尿細管蛋白質についてのスクリーニング検査、つまりラット尿細管傷害モデル(UUO)での腎臓内遺伝子発現の検討はほぼ終了した。これらのうち患側腎での遺伝子発現低下が最も著明だったのはCALB1(遠位尿細管由来)であった。ALDOBやRBP4(近位尿細管)も明らかに低下していた。またAQP1(近位尿細管)、AQP2(結合管~集合管)、AQP3(集合管)はいずれも低下していたが、その減少程度はCALB1に及ばなかった。 一方、ラットUUOで患側腎に遺伝子発現が増加したものも多くあり注目した。ラット腎臓に限らずヒト腎臓でも同様に、尿細管傷害時にネフロン部位特異的に発現が増加するのか、尿中排泄も増加するのかを順次検討した。GSTM3(遠位尿細管)は尿細管傷害の患者数名の尿中増加が確認されたが、患者腎での発現増加は明らかではなかった。ANXA3(遠位尿細管)は尿細管傷害の患者数名の尿で排泄増加が確認されたが、患者腎では遠位尿細管部位での発現増加は明らかでなく、増加した間質浸潤細胞の発現を反映した可能性が考えられた。DNPH1(近位尿細管)はヒトではラットと逆に、尿細管傷害の患者腎で発現が低下していた。FBLN5(近位尿細管)は尿細管傷害の患者腎で発現が増加していたが、尿中排泄はすべての対象者で検出できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
102個の尿細管蛋白質について、ラットUUOにおいて患側腎で遺伝子発現が変動(増加または低下)したその他の蛋白質についても同様に、順次ヒトでの検討を継続する。ヒト腎臓における発現と尿中排泄を、正常者と患者で比較検討していく。ヒトまたはラットのいずれかでしか使用できなかった抗体については、検討の上、別の会社のものを購入し、再度ヒトとラットでの比較検討を行なう。ヒト尿検体サンプル数を増やして検討を継続する。健常者、蛋白尿性腎疾患で尿細管傷害のない者、尿細管傷害のある者、各10検体以上を目標とする。Western blottingでの尿中排泄の増減が腎臓内での発現の増減をよく反映する蛋白質を選別し、これらが尿細管傷害の早期尿バイオマーカーとなりうる可能性を検討する。ラットanti-GBM腎炎とischemia reperfusion injuryまたはシスプラチン腎症について、発症早期から経時的に採尿し、尿Western blottingを行ない、腎組織での経時的な発現増減との関連を検討する。また血清クレアチニンの上昇や他の尿バイオマーカー(NGALやL-FABP)の変動に先立って尿中に排泄量の増減が確認できるか検討する。さらにラット、ヒトにおける腎組織切片上での尿細管傷害の程度と、尿中排泄量の関連を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究経費については過不足が生じないように綿密に計画を立て、必要分で可能なものはキャンペーン価格で購入するように計画し、不必要なものは購入しないように留意した。年度末に研究用消耗品に必要が生じ業者に確認したところ、税込み価格が2,900円とのことで断念、結果として2,834円が次年度使用額となった。当該年度予定額1,667,354円のうちの2,834円であり、おおむね計画通り助成金を使用できたと考えている。 次年度分として請求した助成金と合わせて、当該年度末に必要になった研究用消耗品をまず購入する。
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