カテコラミン刺激によるインスリン分泌という生理現象があるがその分子機構は未解明である。申請者らは、脂肪細胞における脂肪分解を担うリパーゼであるホルモン感受性リパーゼ(HSL)の欠損マウスにおいて検討を行った結果、野生型マウス(WT)では認められるカテコラミン(イソプロテレノール(ISO))によるインスリン分泌が、HSL欠損マウス(KO)では全く認められないことを見出した。この現象の分子機構を明らかにすることが本研究の目的である。ISOの投与量とタイムコースの検討の結果、ISO 0.3mg/kgの腹腔内投与により、投与後10分において、血中のインスリン濃度が最大(6.3 ng/ml)であった。この条件で、WTとHSLKOをin vivoでカテコラミン刺激し、現象の再現性を確認した上で、血清サンプルを採取した。この血清を用いて、インスリン分泌に影響する既知のホルモンを測定した。GLP-1、GIP、グル カゴン、グレリン、レプチンなどの血中濃度測定の結果、ISO刺激10分後の血清においてグレリンとレプチンの増加を認めたが、グレリンの増加はWTとHSLKOで同程度(WT:2.2倍; HSLKO:2.0倍)、レプチンはWTのみで増加を認めたものの程度が弱く(WT:1.3倍; HSLKO:1.0倍)、またタイムコースの検討では5分では増加せずピークは30分以後であり、これによるインスリン分泌促進の説明は困難であった。カテコラミン刺激はHSLやATGLなどのリパーゼを介して脂肪細胞の中性脂質水解を亢進させる。そこでHSL固有の中性脂質代謝産物がインスリン分泌を促進する可能性を考えた。WTおよびHSLKOのin vivoカテコラミン刺激後の血清を用いてメタボロミクス解析行い、カテコラミン刺激によってWTのみで有意に増加(>1.5倍)する代謝産物を探索した結果、有意な変動を示す物質が、CE-TOFMS解析で2個、LC-TOFMSで9個得られた。これらの候補物質について、現在in vivo、in vitroでの検証を進めている。
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