褐色脂肪細胞は、特異的にミトコンドリア内膜に発現するUCP1(Uncoupling protein 1)がプロトン濃度勾配をATP合成とカップルせずに解消することによって、脂肪酸を酸化分解したエネルギーを熱として放出する細胞であり、エネルギー出納と糖脂質代謝調節に関与する細胞である。また内臓型肥満、耐糖能異常と脂質代謝異常の是正に重要な役割を果たす。しかしながら、UCP1を介する以外の機能、とくに液性因子を介した機能については、ほとんど知られていない。我々は、褐色脂肪細胞を誘導する技術を開発したので、本研究ではこの技術を用いて、褐色脂肪細胞が産生する液性因子の解析とその機能解析を行った。DNAマイクロアレイ解析を行って白色脂肪細胞との遺伝子発現プロファイルをゲノムワイドに解析した結果、褐色脂肪細胞が選択的に産生し、細胞外に分泌されると予想されるいくつかのたんぱくを見出した。これらたんぱくの遺伝子にFLAGを融合させたキメラ遺伝子を構築し、培養細胞株に導入し、またマウスに静脈内トランスフェクションしてin vivo発現を試みた。このマウス血清および肝臓のライセートを抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロットにて解析した結果、FLAG融合たんぱくの存在は認められず、一方培養細胞株のライセートでは認められた。他方で、UCP1をノックダウンした褐色脂肪細胞を作成し、マウスに移植して種々のアッセイに供したところ、UCP1を発現する褐色脂肪細胞よりは低いものの一部の機能が示唆され、これらは液性因子を介する可能性が考えられた。したがって、褐色脂肪細胞は全身的に作用する液性因子を分泌することで、UCP1非依存性の機能を果たしている可能性が示唆された。本研究の成果は、糖尿病やメタボリック症候群の再生医療に結びつく可能性が期待できる。
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