研究課題/領域番号 |
24659449
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
鯉淵 典之 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80234681)
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研究分担者 |
岩崎 俊晴 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80375576)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 甲状腺ホルモン / 有酸素運動 / 骨格筋 / NaK-ATPase / ホルモン感受性 |
研究概要 |
トレッドミルを用いてラットに強度の異なる運動トレーニングを行い,骨格筋における甲状腺ホルモン作用を解析した。 (1) 運動強度の決定:2ヶ月齢Wister 雄性ラットで,異なる強度で30分間の運動を行い,血中乳酸値を測定した。乳酸濃度は15 m/minの運動後では上昇せず,25 m/minの運動ではその開始直後から上昇し,20 m/minの運動ではその開始20分後から上昇した。この結果より,運動強度を無酸素運動群 (anaerobic, AN; 25 m/min) ,有酸素運動群 (aerobic, A; 15 m/min) ,非運動群 (stationary control, SC; 0 m/min) の3群に設定した。 (2) 運動によるTSH値の変化: 1日30分の運動負荷を12日間行い,運動後 1,5,12日目の運動前,運動中 (10, 20, 30分),運動後 (90分,150分) の血漿甲状腺刺激ホルモン (thyroid stimulating hormone, TSH) 値をELISA法で測定した。血中TSH濃度はケージからトレッドミルへの移動に伴うストレスにより一過性に低下したが,SC群では30分で元に戻った。A及びAN群ではそのような上昇は認められなかった。1日目,5日目では両運動群とも運動後 (150分)でもTSHは抑制されたままであったが,12日目では運動後 (150分)で通常の値に戻った。 (3) ヒラメ筋におけるTR発現の変化:1日30分,12日間の強度の異なる運動を行わせ半定量的RT-PCRでヒラメ筋におけるTR mRNA発現量を解析した。ヒラメ筋には4種類全てのアイソフォームが発現していた。特にTRbeta1のmRNA発現がA群で著明に増加した。TRbeta1のタンパク発現も顕著に増加した。運動強度に依存してTH作用が変化することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定通り,運動強度別の甲状腺ホルモン(TH)系の影響を解析し,新たな結果を得た。現在ヒラメ筋におけるTH標的遺伝子の発現を検討する目的で: 上記概要(3) の最終運動から24時間後にトリヨードサイロニン (triiodothyronine, T3) (2 micro g/100 g bw,腹腔内投与) または,生理的食塩水を投与して,6時間後にヒラメ筋を採取し,トレーニング後のTHに対する感受性の変化を,TH感受性遺伝子 (citrate synthase, Na+/K+-ATPase, G6PD, myosin heavy chain I; MHC I, insulin like growth factor-I; IGF-1, IGF-1 receptor; IGF-1R, MyoD) について半定量的RT-PCRを用いて解析している。T3投与により誘導されたNa+/K+-ATPase β mRNA発現はA群において約20%増加した。一方,AN群ではT3投与とNaCl投与で差を認めなかった。これを受け,Na+/K+-ATPase β 遺伝子プロモーター領域の配列を調べたところ,TH応答配列(TRE)に類似した配列を認めた。この配列を用いてin vitro DNA-タンパク結合アッセイを行ったところTRbeta1との結合が認められた。Na+/K+-ATPase βのプロモーター領域を用いてin vivo chromatin immunoprecipitation assay (ChIPアッセイ)の条件を検討している。並行して,筋芽細胞由来のL6細胞を用いてin vitroにおける条件を検討している。 有酸素運動後の自発運動能が増加する現象についてはその機序を解析するため,脳内神経伝達物質の測定を行ったが有意差は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究より,12日間の持続的有酸素運動により,(1) 運動直後のTSH値の低下は運動後(150分)に通常の値に復す,(2) 骨格筋におけるTRbeta1発現が増強する,(3) 一部のTH標的遺伝子においてその感受性が増強する結果を得た。これらの変化は無酸素運動トレーニング群では認められなかったことから,運動強度に依存してTH作用が変化することが明らかとなった。今年度はこの機序につきさらに試料数を増やしたり,多角的に解析することにより解析を進める予定である。引き続きin vivo 及びin vitro ChIP法により解析していく予定である。さらにTREを含むレポーターを作成し,該当する配列が機能的TREであるか確認する予定である。長期の運動トレーニングでは影響が異なることが報告されていることから,長期的運動トレーニングの効果についてもできたら解析を行いたい。予備実験では,組織学的変化が現れる前に甲状腺ホルモン標的遺伝子のmRNA発現が変化するという結果を得ている。 TSHが変化する現象に関しては,ストレスによりTSH値が変動することも考えられるため引き続き検討していきたい。 有酸素運動により,自発運動能が増加する件については,黒質-線条体の試料を用いてTH標的遺伝子と考えられるもののmRNA及びタンパク発現を解析する予定である(一部解析済み)。 脳内神経伝達物質の解析についても引き続き解析を行いたいと考えている。目的遺伝子が絞れたらChIPアッセイ等も検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1) 今後の研究の推進方策に沿って,Na+/K+-ATPaseβプロモーター領域における新たなTREの機能解析が中心となっていく予定である。この目的のため,ChIPアッセイを用いたエピジェネティクス解析を行っていく予定である。ヒストンのアセチル化,脱アセチル化を中心に,T3添加による有酸素運動後の骨格筋におけるTH標的遺伝子のTH感受性の上昇の機序を解明したい。この目的のため強度の異なる運動トレーニング後の骨格筋を用いたin vivo ChIPアッセイを行う予定である。また,培養細胞を用いたin vitro ChIPアッセイを用いてT3添加後の反応を経時的に検討する予定である。そのための,抗体及び,キット,細胞培養関連費用並びに動物飼育関係の費用を計上する予定である。また,機能性のTREであるか確認するためコンストラクト作成費用,大腸菌培養系の費用,レポーターアッセイのための費用,siRNAの解析費用を計上する予定である。長期的有酸素運動では筋線維の種類(速筋,遅筋)にも変化が出るという報告があるので組織学的に確認したい。さらに,できたら筋グリコーゲン量を定量したいと考えている。 (2) 運動により自発運動が亢進する系ではその機序の解明に焦点を当てて解析する予定である。解析試料数を増やして有酸素運動による影響を解析する。引き続き,mRNA及びタンパク発現の解析,神経伝達物質の解析,解析の進行によっては脳組織を用いたin vivo ChIPアッセイも検討したい。血液成分による脳機能への影響も視野に解析する予定である。 (3) 学会報告,共同研究のための連絡費用,論文投稿費用を計上する。
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