研究課題
多くの慢性疾患の基盤病態として「慢性炎症」が注目されているが、健常状態でも軽度の炎症反応(生理的炎症)により生体の恒常性が維持されている可能性がある。我々は既に、妊娠後期の母マウスの脂肪組織におけるマクロファージの浸潤と炎症性サイトカインの増加を報告している。本研究では、生理的炎症の概念の確立を目指して、妊娠マウスの脂肪組織における炎症性変化をモデルとして以下の検討を実施した。1. 妊娠マウスの脂肪組織での生理的炎症の検討:妊娠の経過とともに皮下脂肪組織の重量は増大した。脂肪細胞の大きさは変化がなく、細胞数の増加が認められた。妊娠前の皮下脂肪組織では非炎症性M2マクロファージの割合が比較的多いが、妊娠中期~後期では炎症性M1マクロファージの割合が著しく増加した。2. 妊娠マウスのエネルギー代謝の変化の検討:空腹時血糖が妊娠後期に著しく低下するともに、遊離脂肪酸と中性脂肪の血中濃度は増加してインスリン抵抗性の誘導が示唆された。3. 分娩後のマウスの生理的炎症とエネルギー代謝の変化についての検討:分娩直後には血糖値、遊離脂肪酸、中性脂肪は妊娠前の状態に戻った。一方、脂肪組織の重量と細胞数は徐々に減少し、同時に皮下脂肪組織における炎症性M1マクロファージが低下する傾向が確認された。以上のように、妊娠前期にはグルコースを脂肪組織に取り込み(同化作用), 妊娠中期から後期には脂肪組織の炎症性マクロファージ浸潤により遊離脂肪酸が放出されてインスリン抵抗性が誘導され、母体が脂質をエネルギー源とすることにより(異化作用)、胎児に安定したグルコースの供給が維持できることが示唆された。妊娠母体の脂肪組織では一過性の生理的炎症が誘導されることが明らかになり、これが妊娠期の母体・胎児間の恒常性維持に関与すると考えられた。
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http://www.tmd.ac.jp/grad/cme/index.html