研究課題/領域番号 |
24659451
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 良敬 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (80420363)
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キーワード | 寒冷暴露 / 褐色脂肪 / グルカゴン / 甲状腺ホルモン / ニコチンアミド |
研究概要 |
褐色脂肪組織は交感神経系の刺激により、脂肪や炭水化物の化学エネルギーをミトコンドリアにおける脱共役蛋白質(Uncoupling Protein, UCP)の働きにより熱へと転換する生体の主要な熱産生/体温保持組織である。血糖上昇作用を示す主要なペプチドホルモンであるグルカゴンが褐色脂肪組織の機能制御に関与しているかは明らかでなかった。我々が作成したグルカゴン遺伝子-GFPノックインマウスのホモ接合体(GCGKO)はグルカゴンをはじめとするプログルカゴン由来ペプチド全てを欠損するモデル動物で、サーチュインの共基質であるニコチンアミド代謝の異常を示す。 本研究では、これまでにGCGKOおよび対照群の酸素消費を包括的実験動物モニタリングシステム(Comprehensive Laboratory Animal Monitoring System:CLAMS)により解析した上で、褐色脂肪、白色脂肪、肝臓組織を回収し、熱産生関連遺伝子やアミノ酸代謝関連遺伝子の発現を解析してきた。さらにGCGKOに寒冷刺激を負荷した上で、これらモデル動物のエネルギー消費と遺伝子発現に及ぼす影響を解析した。 これまでにGCGKOが常温における酸素消費には大きな異常を認めない一方で、寒冷暴露時の体温低下はGCGKOは対照群より著しく、また褐色脂肪組織においてUCPの発現が低下していることを認めた。GCGKOはグルカゴンのみならず、GLP-1やGLP-2などのプログルカゴン由来ペプチドすべてを欠損する。そこで、GCGKOの寒冷不耐性がグルカゴン作用の欠損によるかを明らかとするために、GCGKOにグルカゴンを投与した上で、寒冷暴露実験を行った。その結果、グルカゴン投与により寒冷不耐性が改善することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グルカゴンが褐色脂肪組織の機能制御に関与していることが、研究代表者らが作成した独自の動物モデルであるグルカゴン遺伝子-GFPノックインマウスを用いた検証により、初めて明らかとすることができた。研究代表者らはグルカゴン遺伝子欠損マウスがニコチンアミド代謝の異常を示すことを以前に報告しているが(2012 Diabetes誌)、本研究で明らかとなった新たな知見は、グルカゴンと褐色脂肪の機能調節、さらにニコチンアミド代謝とサーチュインの機能調節の間に何らかのクロストークが存在することを示唆するものであると、我々は考えている。
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今後の研究の推進方策 |
褐色脂肪組織におけるグルカゴン受容体の発現は肝臓における発現に比べるときわめて少なく、観察されたグルカゴン作用が、肝臓を介したものか、直接的に褐色脂肪に働いたものかは明らかでない。今年度はグルカゴンによる褐色脂肪の機能制御が、ニコチンアミド代謝などを介しているか検証を進める予定である。 一方、我々は褐色脂肪組織における甲状腺ホルモン作用の制御に関わる、脱ヨード酵素や、甲状腺ホルモン受容体の遺伝子発現がグルカゴン遺伝子欠損動物において低くなっていることも見いだしている。今後は、褐色脂肪とグルカゴン、甲状腺ホルモンそしてサーチュイン機能に関わるニコチンアミドの代謝をはじめとする代謝制御のクロストークのメカニズムを明らかとしていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
機器の購入において、他の研究課題の経費を含めた共同購入が可能であったことで見込みよりも経費が節減できた。また、大学の動物実験施設の移転により一時的に動物実験を縮小する必要が生じたことも、経費の繰り越しの原因となっている。 動物実験施設の移転により見送った動物実験を行うほか、種々の測定キットをはじめとした消耗品の購入に充当する見込みである。
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