研究課題
GATA1は赤血球・巨核球分化に重要な遺伝子の発現を包括的に制御する転写因子であり、その機能異常は2系列の白血病を引き起こす。GATA1の発現低下によるマウスモデルでは、c-Kit陽性の赤芽球性白血病を発症する前癌病態を構成する一方で、ダウン症患児においては、GATA1遺伝子の変異によりアミノ末端の欠失した短型GATA1が発現し、急性巨核芽球性白血病の前癌病態(一過性骨髄増殖性疾患:TMD)を構築することがわかっている。GATA1遺伝子は、1つの翻訳されないエキソンと、翻訳される5つのエキソンから構成されており、完全長GATA1の翻訳に関わる6つのエキソンを使ったmRNAと、ごく少量の、第2エキソンをスキップした異型mRNAが産生される。TMD患児のほとんどの症例では、第2エキソンをスキップした異型mRNAのみが産生されているため、第3エキソンに存在する第2の翻訳開始コドンを利用した短型GATA1のみが発現している。私たちは、臨床症例の詳細な解析から、短型GATA1のみならず、内部欠失型のGATA1変異体を発現しているTMD症例が存在することを見いだした。GATA1欠失マウス胎児肝の巨核球前駆細胞や急性巨核芽球性白血病由来白血病細胞株の過増殖傾向は、完全長GATA1を導入することにより抑制することができるが、この内部欠失型GATA1変異体は、短型GATA1と同様に、抑制することができなかった。短型GATA1と内部欠失型GATA1に共通して欠失している領域は、Rbタンパク質結合に重要なアミノ酸配列を含んでいることから、GATA1とRbの相互作用が、巨核球前駆細胞の増殖制御に重要であることが示唆される。
2: おおむね順調に進展している
Rbとの結合に重要なアミノ酸領域を欠失した内部欠失型GATA1変異体によるTMD症例を見いだし、また、内部欠失型GATA1変異体が巨核球前駆細胞の増殖抑制に機能しないことを実験的に明らかにしたことから、おおむね順調に進展していると考える
ヒト症例で見いだされたRbと結合できない内部欠失型GATA1変異体や、Rb結合配列に変異を導入して人工的に作出した変異体を発現するトランスジェニックマウスを用いて、ヒトTMDモデル系を作成する。本モデル系を用いて、TMDの発症機構について、分子生物学的解析を行う。
次年度使用額は、当初計画していた網羅的発現解析、複合体解析を次年度に延期することによって生じたものであり、延期した網羅的発現解析、複合体解析に必要な経費として、平成25年度に使用するマウス解析にかかる費用と合わせて使用する予定である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件)
Blood
巻: 121(16) ページ: 3181-3184
10.1182/blood-2012-01-405746
J Exp Med
巻: 210 ページ: 71-84
10.1084/jem.20120993
J Biol Chem
巻: 287(25) ページ: 21439-21449
10.1074/jbc.M112.370437
Mol Cell Biol
巻: 32(12) ページ: 2312-2322
10.1128/MCB.06699-11
巻: 119(11) ページ: 2615-2623
10.1182/blood-2011-09-382473
Cancer Sci
巻: 103 ページ: 2039-2044
10.1111/cas.12007