研究課題
挑戦的萌芽研究
がん幹細胞とは、自己複製能力と未分化性の維持能力を新たに獲得した悪性の幹細胞であり、腫瘍の源である。国民の死因の約半分を占める難治性悪性腫瘍の治療成績の向上には、がん幹細胞自身を標的とした新規治療法の開発が求められている。がん幹細胞を標的とする治療法の開発には、1)がん幹細胞の純化、2)その純化したがん幹細胞の生体内での機能、を知る必要がある。これらを明らかにするために必須の基本技術が、高度免疫不全マウスを用いた異種移植アッセイシステムである。本課題では、高効率な癌幹細胞アッセイのための次世代異種移植モデルを確立する。我々は、繁殖能力の高いC57/BL6ストレインに、Rag2欠損、Il2rg欠損によってマウスT細胞分化を完全遮断し、ヒト型SIRPA遺伝子をノックインし、完全ヒトCD47-ヒトSIRPA結合可能による完全マクロファージ寛容を導入したマウスラインを目指す。我々は、すでに、B6バックグランドでRag2およびIL2Rγを欠損したマウスに、NOD型SIRPA変異を導入した免疫不全マウスB6.Rag2(null)Il2rg(nul)lSIRPA(NOD/NOD)ライン(BRGS)を樹立しており、当該年度では、現存するラインで最高の生着効率を持つNOG/NSGラインと同等の生着効率を持つこと明らかにし、Blood誌に報告した。この結果は、マクロファージ寛容の強化によって、マウスバックグラウンドによらず、新規免疫不全マウスラインの樹立が可能であることを示している。さらに、完全マクロファージ寛容導入を目的としてヒト型SIRPAをノックインしたラインの樹立した。次年度でBRGSラインと交配し、最終ラインを樹立し、新型マウスラインのヒト細胞の生着効率を検証するとともに、がん幹細胞のアッセイを進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
本課題では、高効率な癌幹細胞アッセイのための次世代異種移植モデルを確立する。我々は、繁殖能力の高いC57/BL6ストレインに、Rag2欠損、Il2rg欠損によってマウスT細胞分化を完全遮断し、ヒト型SIRPA遺伝子をノックインし、完全ヒトCD47-ヒトSIRPA結合可能による完全マクロファージ寛容を導入したマウスラインを樹立する。我々は既に、C57/BL6バックグランドでRag2およびIL2Rγを欠損したマウスに、NOD型SIRPA変異を導入した免疫不全マウスB6.Rag2(null)Il2rg(null)SIRPA(NOD/NOD)ライン(BRGS)を樹立している。このBRGSマウスにおいては、T細胞のリークがなく、NOD型SIRPを持つために、NOD/SCIDと比べて良好なヒト造血細胞生着がみられ、B6ラインであることから、高い生存・繁殖能力もみられ、その成果をBlood誌に報告した。この結果は、CD47-SIRPAの結合強化により、さらにヒト細胞の生着効率の改善が期待できることを示している。これまでの我々の知見をもとに、バックグランドストレイン、ヒト型完全マクロファージ寛容の導入の観点から、本研究課題では、既存のNOGラインを越えた汎用性の高い次世代ラインを開発を目指している。当該年度では、ヒト型SIRPAノックインラインを樹立しており、次年度では、BRGSマウスを交配することで最終ラインが得られる予定である。さらに、その後は、各種がん幹細胞のアッセイ系の開始が可能となり、研究計画はおおむね順調に進展している。
新規ラインの確立、バッククロスなど作製には時間がかかるため、次年度以降もも引き続いてラインの確立を継続する。樹立したB6. SIRPA(human/human)ラインとBRGラインを交配し、B6. Rag2(null)Il2rg(null)SIRPA(human/human)ラインを完成させる。実験には多数のマウスが必要であり、マウスコロニーの拡大、凍結杯の保存などに、時間を要すると予想される。マウスコロニーの拡大後、各種がん幹細胞アッセイ系の至適化を試みる。現在の固形がんの異種移植アッセイでは、分離した幹細胞分画は、皮下投与で移植されるが、生着効率が低く、詳細な幹細胞分画の同定が困難であった、本課題で樹立するマウスラインでは、ヒト移植片に対して完全なマクロファージ寛容が成立しており、幹細胞分画を皮下投与しても、マウス皮下に存在するマクロファージによって拒絶されることなく、高効率な生着が期待できる。造血器腫瘍のほか、大腸がん、乳がんなど広く悪性腫瘍組織よりFACS Aria SORPを用いて高純度に分離した細胞分画を、静注、骨髄内、新生仔マウス顔面静脈、皮下などの投与経路で移植し、マウスでの腫瘍再構築能を検証し、至適移植法の確立ととともに固形がんにおける幹細胞分画の高度純化を目指す。
次世代免疫不全マウスラインの樹立のために、BRGSライン、ヒトSIRPAノックインライン樹立のためのB6.SIRPA(human/human)ライン、及び、今後、これらのラインの交配を行っていくため、常時200~300匹のマウスの維持が必要である。さらに、NOD/SCIDマウスやNSGラインの維持も必要なため、マウス飼育に必要な動物実験費が非常に多くかかり、次年度研究費使用計画の多くを占める。また、交配したマウスの遺伝子型をPCR、シークエンスによって確認することが必要なため、DNA抽出用試薬、PCRプライマー、Taqポリメラーゼなどの遺伝子操作試薬、生化学試薬が必要で、このための費用を計上した。また、マルチカラーフローサイトメトリーを用いてMDS幹細胞を純化していく過程で、CD34、CD38、分化抗原(5-7種類)など既知の抗体に加えて、新規の幹細胞特異的抗原に対する抗体も必要になる。また、移植マウスの解析においても、hCD45をはじめとした抗体が複数必要になる。また、樹立した新規マウスラインの評価のため、mCD45などの抗マウス抗体も複数必要である。フローサイトメトリーによる解析には、多数のFACS tubeやシース液等の実験機材を使用するため、これらの経費も計上している。さらに、貴重な臨床検体や移植マウス組織片を凍結保存するための細胞保存用試薬(セルバンカー、OTCコンパウンド)、培養用試薬、また、凍結細胞保存のための、液体窒素の維持費などを計上した。また、国内・国際主要学会参加のための旅費、研究成果を公表するための費用を計上している。いずれも、研究目的を達成するために必要最低限な経費を計上した。
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