研究概要 |
幹細胞の表面には,各々の発生段階を反映した特異的な糖鎖が発現し,各段階に対応した重要な役割を担っている.最近,造血器官の形成や維持に働くシグナル伝達経路が,脊椎動物とショウジョウバエで高度に保存されていることが示された.本研究では,造血幹細胞の維持と分化に重要な役割を果たす糖鎖関連遺伝子の探索と同定を,ショウジョウバエ造血幹細胞とそのニッチで行った. ショウジョウバエには,時空間を制御して目的の蛋白質を発現させることができるGal4/UAS システムがある.ショウジョウバエ幼虫は,造血幹細胞ニッチ・造血幹細胞・成熟血球細胞で構成される造血器官をもつ.造血幹細胞では domeless が発現している.domeless の制御下で Gal4 を産生する系統 (domeless-Gal4)と,UAS 配列の下流に糖鎖関連遺伝子のノックダウンコンストラクトを接続した UAS-RNAi 系統を交配し生まれた次世代では,造血幹細胞特異的に目的の糖鎖関連遺伝子がノックダウンされる.さらに,造血幹細胞を標識し, 造血幹細胞の増減を検討した.グリコサミノグリカン,N-結合型糖鎖を合成する糖転移酵素, さらには, 様々なO-結合型糖鎖を合成する糖転移酵素を個々にノックダウンして検索を行ったところ,(1) 造血幹細胞が減少し,造血幹細胞の維持に関与すると考えられるもの,また,(2) 造血幹細胞が増加し,造血幹細胞の分化に関与すると考えられるものを各々複数個見出すことができた. また,造血幹細胞ニッチで Gal4 を産生する collier-Gal4 系統を用いて,同様に一部の糖鎖関連遺伝子に対して造血幹細胞ニッチ特異的なノックダウンを遂行した. その結果,造血幹細胞の維持に機能する候補遺伝子も得ることができた.
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